相続放棄した不動産の名義|登記はどうなるのか

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親の家を相続放棄したのに、翌年も固定資産税の納税通知書が自分あてに届いた、あるいは登記情報を取ってみたら名義がいまだに亡くなった親のままだった。こうした「放棄したはずなのに名義が消えていない」という戸惑いは珍しくありません。相続放棄(家庭裁判所に申述して相続人でなくなる手続き)と、不動産の登記名義(登記簿に記録された所有者)は別の制度で、片方をしてももう片方が連動して動くわけではないからです。

先に結論を言い切ります。相続放棄をしても、不動産の登記名義は自動では変わりません。名義は亡くなった方のまま残り続け、放棄した本人が名義人になることもありません。名義を動かすのは、放棄した人ではなく「最終的にその不動産を相続する人」です。以下では、なぜそうなるのか、放棄後に登記を進めるのは誰か、そのとき費用はどれくらいかを、法令と公的資料の数値だけで整理します。

相続放棄をしても登記の名義は自動で変わらない

登記名義の書き換えは、法務局(登記を扱う国の役所)が職権で行うものではなく、名義を取得する人が自分で申請して初めて動きます。相続放棄はあくまで「自分は相続人にならない」という意思表示であって、登記簿に対して何かをする手続きではありません。したがって放棄しても、登記簿上の所有者は亡くなった方(被相続人)のまま据え置かれます。

納税通知書が放棄した人に届くのも同じ理由です。固定資産税は毎年1月1日時点の登記名義や課税台帳をもとに市区町村が課税するため、名義が動かないうちは、被相続人と同居していた相続人などに通知が回ってくることがあります。放棄が受理されていれば納税義務は生じませんが、通知そのものは名義や台帳が更新されるまで止まらない、と考えておくと混乱しません。

なぜ放棄した人は名義人にならないのか

民法939条は、相続を放棄した人は「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と定めています。初めから相続人でなかった扱いになるため、放棄した人はその不動産について所有権を一度も取得しません。所有権を取得しない以上、その人を名義人とする相続登記は理屈のうえでできず、登記簿に名前が載ることもありません。

ここが「放棄すると自分の名義になってしまうのでは」という不安の解消点です。放棄によって名義が自分に移ることはなく、逆に自分の名義を消す作業も必要ありません。最初から所有者の候補に入らないからです。名義を動かすのは、放棄によって相続人になった次の順位の人か、あるいは最終的にその不動産を引き受ける立場の人になります。

放棄したあと、不動産の登記は誰がするのか

相続人の一部が放棄した場合と、相続人全員が放棄した場合とで、その後の流れが分かれます。

相続人の一部が放棄したとき

子のうち一人だけが放棄したようなケースでは、残った相続人(放棄しなかった人)が遺産分割協議などを経て名義を取得し、その人が相続登記を申請します。放棄した人は協議にも登記にも当事者として加わりません。ただし後述するとおり、残った人が登記するときに「その人が確かに放棄した」ことを示す書類が必要になる場面があります。

同じ順位の全員が放棄したとき

たとえば子が全員放棄すると、相続権は次の順位(親などの直系尊属、いなければ兄弟姉妹)へ移ります。次順位の人が相続すれば、その人が名義を取得して登記します。血縁のある相続人が全員放棄して誰も相続する人がいなくなった場合は、家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人(相続人不在の遺産を管理・清算する人)が手続きを進め、最終的に国庫(国の財産)へ引き継がれていく流れになります。清算人の選任や費用は範囲が大きいため、詳しくは相続人がいない場合の手続きの記事にゆずります。

なお、放棄した不動産の管理をどこまで続ける必要があるか(民法上の保存義務)は登記とは別の論点です。本記事は登記名義に絞りますので、管理の責任については別記事を参照してください。

相続放棄申述受理証明書を使って他の相続人が登記する

相続人の一部が放棄した状態で、残った相続人が名義を取得して相続登記をするとき、登記申請には「その人が相続人から外れたこと」を証明する書類として、家庭裁判所が発行する相続放棄申述受理証明書(放棄が受理された事実を証明する書面)を添付します。放棄した本人に登記へ協力してもらう必要はなく、受理証明書という客観的な書面で足りるのがポイントです。

受理証明書は、放棄を申述した本人だけでなく、その相続について利害関係を持つ他の相続人なども家庭裁判所に交付を申請できます。放棄した人と連絡が取りづらい場合でも、残った相続人の側で証明書を用意して登記を進められる余地がある、ということです。証明書の交付には所定の手数料と、事件番号などの情報が必要になります。具体的な申請様式や添付書類の細部は管轄の家庭裁判所・法務局で必ず確認してください。

放棄後の登記にかかる費用の目安

放棄そのものにかかる費用と、放棄後に残った人が名義を移す登記の費用は別々に発生します。混同しやすいので分けて整理します。

相続放棄の手続き費用

相続放棄の申述にかかる法定費用は、収入印紙が申述人1人につき800円、これに家庭裁判所ごとに定める郵便切手が加わります(裁判所「相続の放棄の申述」)。書類集めや申述書作成を司法書士に依頼する場合の報酬は、平均で40,892円という目安があります(設例: 死亡後3か月以内・戸籍等5通の交付請求+申述書作成。日本司法書士会連合会2024年アンケート。2026年9月時点・公式資料で確認)。

放棄後に名義を移す相続登記の費用

残った相続人が名義を取得する相続登記では、登録免許税(登記のときに国へ納める税)として不動産の価額(固定資産税評価額)×0.4%がかかります(国税庁 タックスアンサー No.7191)。司法書士に依頼する場合の報酬は、平均で74,888円という目安があります(設例: 土地1筆+建物1棟・評価額合計1,000万円・戸籍等5通・遺産分割協議書と相続関係説明図の作成・登記申請代理。日本司法書士会連合会2024年アンケート)。

評価額1,000万円の不動産を例にした概算は次のとおりです。

費目 金額の目安 根拠
登録免許税 40,000円(1,000万円×0.4%) 国税庁 No.7191
司法書士報酬(相続登記) 平均 74,888円 日司連2024アンケート(設例付き)
戸籍・評価証明などの実費 別途 通数・自治体で変動

報酬は相続人や不動産の数、遺産分割の有無で大きく変わり、登録免許税や戸籍の実費は別に必要です。あくまで一つの設例に基づく平均値である点に注意してください。なお、相続する土地の価額が100万円以下の場合は登録免許税が免税となる措置があります(令和9年3月31日まで。同 No.7191)。名義変更全体の費用感は実家の名義変更は約11万円が目安という比較記事で内訳までまとめています。

放棄した人に相続登記の義務はあるか

2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記しないと、正当な理由なく怠った場合に10万円以下の過料の対象になります(法務省)。ただしこの義務は「相続で所有権を取得した人」にかかるものです。相続放棄をした人は初めから相続人でなかった扱いになり、その不動産の所有権を取得していないため、放棄した人自身に相続登記の義務が生じることはありません。

義務を負うのは、放棄の結果として実際にその不動産を相続することになった人です。次順位で相続人になった人などは、取得を知った日から3年という期限を意識する必要があります。放棄した側は、自分に登記義務がないことと、名義が自動では動かないことの両方を押さえておけば十分です。

よくある質問

相続放棄すれば登記名義は自然に消えますか。

消えません。登記名義は申請しない限り動かず、放棄しても亡くなった方の名義のまま残ります。名義を動かすのは放棄した人ではなく、最終的に不動産を取得する相続人や相続財産清算人です。

放棄したのに固定資産税の通知が来ます。払う必要がありますか。

放棄が受理されていれば、その不動産の固定資産税の納税義務は生じません。通知は名義や課税台帳が更新されるまで届くことがあるため、放棄が受理された事実を市区町村に伝え、証明書の提示を求められたら対応してください。

放棄した自分が名義を消す登記をしなければいけませんか。

必要ありません。放棄した人は所有権を取得していないため、登記簿に名前が載ることも、名前を消す作業も発生しません。登記を申請するのは名義を取得する相続人です。

他の相続人が登記するとき、放棄した私は協力が必要ですか。

登記への立ち会いや押印は基本的に不要です。残った相続人は、家庭裁判所が発行する相続放棄申述受理証明書を添付することで、あなたが相続人から外れた事実を示して登記を進められます。

相続人全員が放棄したら名義はどうなりますか。

血縁の相続人が全員放棄すると、家庭裁判所が選任する相続財産清算人が遺産を管理・清算し、最終的に国庫へ引き継がれていきます。名義は清算・帰属の手続きの中で動くことになります。

放棄した不動産に相続登記の義務化は関係しますか。

放棄した人には関係しません。3年以内の登記義務は所有権を取得した人にかかるもので、放棄して相続人でなくなった人は対象外です。義務を負うのは実際に相続した次順位の人などになります。

参考・出典

  • 国税庁 タックスアンサー No.7191(登録免許税の税額表・相続登記0.4%・100万円以下の免税) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
  • 裁判所「相続の放棄の申述」(申述期間・収入印紙800円・郵便切手・申述先) https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
  • 法務省「相続登記の申請義務化」(2024年4月1日施行・3年以内・10万円以下の過料) https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
  • e-Gov法令検索 民法(第939条ほか) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 日本司法書士会連合会「報酬に関するアンケート」(2024年3月実施。相続登記 平均74,888円・相続放棄申述書作成 平均40,892円) https://www.shiho-shoshi.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/11/2a2e2c594bc4cd9ff2ca0f6d916db85e.pdf
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