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四十九日が済んだころ、兄弟の一人が「戸籍の取り寄せや登記の費用、これまで全部こっちが立て替えてきたんだけど」と切り出し、では誰がどれだけ負担するのかで空気が固くなる。相続の現場では、手続きそのものより「この費用は誰が払うのか」でひっかかる場面が少なくありません。立替えた人がそのまま泣き寝入りするのか、遺産から出すのか、頭数で割るのかがあいまいなまま進むと、後から不公平感が残ります。
結論から言えば、相続費用の負担は「費用の性質ごとに払う人が違う」うえで、相続人どうしの分担は原則として遺産分割協議で自由に決められるのが基本です。決め方の軸は、法定相続分に応じるか、実際に財産を多く取る人が多く負担するか、の2つ。まずは費用を性質ごとに仕分け、そのうえで負担割合を協議で明文化するのが、あとで揉めないための最短ルートです。
相続費用は「誰が払うか」が性質ごとに違う

ひとまとめに相続費用と呼んでも、負担すべき人は費用の性質によって分かれます。ここを混ぜて「全部で割ろう」とすると、本来遺産から出すべきものを個人が背負うことになりかねません。
被相続人にひもづく費用(債務)
亡くなった方の未払い医療費や入院費、未納の税金や公共料金は、被相続人が残した債務です。これらは相続財産(遺産)から支払うのが原則で、相続人が受け継ぐマイナスの財産にあたります。
手続きにかかる費用
戸籍謄本の取得実費、相続登記の登録免許税(登記のときに国へ納める税金)、司法書士や税理士への報酬などです。これは相続手続きを進めるために発生する費用で、誰が最終的に負担するかは相続人どうしの取り決め次第になります。金額の相場は相続手続きの費用相場にまとめています。
葬儀費用
葬儀費用は、厳密には「相続開始後に相続人が負担する費用」であり、被相続人の債務そのものではありません。実務では喪主が立て替え、香典や遺産から精算するのが一般的ですが、誰が負担するかは相続人間の合意で決めます。相続税の計算では葬式費用を遺産総額から差し引ける点は、後述する「経費」の論点で扱います。
相続人どうしの負担割合はどう決めるか
手続き費用や葬儀費用を「相続人の誰が、どの割合で持つか」に、法律上の決まった正解はありません。基本は遺産分割協議(相続人全員の話し合い)で自由に決められます。決め方には主に次の3つの考え方があります。
- 法定相続分に応じて負担する: 子3人なら各3分の1ずつ、というように、受け取る割合と同じ比率で費用も分ける。もっとも公平感が得やすい方法です。
- 財産を多く取る人が多く負担する: 実家を単独で相続する人が登記費用も負担する、というように、利益を受ける人が費用も持つ考え方。
- 遺産の中から先に支払う: 預貯金など分けやすい財産から手続き費用を先に払い、残りを分割する。立替えの精算が要らず、実務では扱いやすい方法です。
負担割合の判断フロー
迷ったら、次の順で当てはめると決めやすくなります。
- 特定の人だけが利益を受ける費用か(例: 一人が単独で取得する不動産の登記費用) → その人が負担するのが自然です。
- 相続人全員に共通する費用か(例: 戸籍収集、遺産分割協議書の作成) → 法定相続分に応じて分けるのが公平です。
- 分けやすい遺産があるか → あれば遺産の中から先に精算し、残りを分割すると立替えのしこりが残りません。
いずれの方法でも、決めた割合は口約束にせず、遺産分割協議書に「費用は相続人が法定相続分に応じて負担する」などと一文入れておくと、後日の蒸し返しを防げます。
【計算例】立替えた手続き費用を法定相続分で精算する

実数で見てみます。相続人が子3人、評価額の合計が1,000万円の実家(土地と建物)を、長男が代表して手続きし費用を立て替えたケースを想定します。使う費用は、司法書士へ相続登記を頼んだ場合の設例平均と、登録免許税です。
| 費用の項目 | 金額 | 計算根拠 |
|---|---|---|
| 相続登記の登録免許税 | 40,000円 | 1,000万円 × 0.4%(固定資産税評価額 × 1,000分の4) |
| 司法書士報酬(相続登記) | 74,888円 | 日司連2024年アンケートの設例平均 |
| 合計 | 114,888円 | 戸籍の取得実費は別途 |
この合計を法定相続分(3人で均等)に応じて分けると、1人あたりの負担は次のようになります。
- 114,888円 ÷ 3 = 1人あたり約38,296円
- 長男が全額立て替えていた場合、他の2人が各約38,296円を長男に精算する
もし「実家を長男が単独で取得する」内容の分割なら、登記費用は長男が全額負担し、戸籍収集など全員に共通する実費だけを3等分する、という分け方も合理的です。誰がどの財産を取るかと費用負担をセットで考えると、公平感が出しやすくなります(金額は2026年9月時点・日本司法書士会連合会アンケートの設例平均)。
相続費用は「経費」にできるのか
「相続でかかった費用は経費で落とせないか」という疑問はよく出ます。ここでいう経費には、相続税の計算で差し引く場合と、所得税などの必要経費にする場合の2つの意味があり、扱いがまったく違います。
相続税の計算で差し引けるもの
相続税は、遺産総額から一定の費用を差し引いて課税価格を求めます。差し引けるのは、被相続人が残した債務(未払い医療費、未納の税金など)と、葬式費用です。この2つは遺産総額から控除できます。一方で、相続手続きのためにかかった登記費用や司法書士・税理士への報酬は、原則として相続税の計算では差し引けません。手続き費用は「被相続人の債務」でも「葬式費用」でもないためです。
所得税・事業の必要経費にできるか
相続で財産を受け取ること自体は所得税の対象ではないため、通常の相続手続き費用を個人の必要経費に計上することはできません。ただし、相続した不動産を賃貸に出しているなど収益を生む財産の場合は、その登記費用などが不動産所得の必要経費や取得費に関わることがあり、扱いが分かれます。判断が難しい領域なので、収益物件が絡むときは税理士に確認するのが安全です。相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。
立替え・精算でもめないための実務ポイント

負担割合を決めても、記録がないと精算の段で「言った・言わない」になります。次の3つを押さえておくと、費用のトラブルはかなり防げます。
- 領収書と支払い記録を必ず残す: 誰が、いつ、何にいくら払ったかを一覧にしておく。葬儀費用や戸籍の実費も対象です。
- 立替えは早めに共有する: 費用が発生した都度、相続人全員に金額を知らせておくと、後からまとめて請求するより角が立ちません。
- 負担割合を協議書に明記する: 遺産分割協議書に費用負担の条項を入れ、精算のルールを文書化しておく。相続放棄を考えている人がいる場合は、費用の立替えが相続の承認とみなされないよう慎重に扱う必要があります。
よくある質問
相続手続きの費用は、必ず相続人全員で割るのですか。
法律上の決まりはなく、遺産分割協議で自由に決められます。法定相続分に応じて割る、財産を多く取る人が多く負担する、遺産から先に払うなど、方法はいくつかあります。決めた内容は協議書に残しておくと安心です。
葬儀費用は誰が払うことになりますか。
実務では喪主が立て替え、香典や遺産から精算するのが一般的です。誰がどれだけ負担するかは相続人の合意で決めます。なお相続税の計算では、葬式費用を遺産総額から差し引くことができます。
立て替えた費用は、あとで他の相続人に請求できますか。
負担割合の合意があれば、その割合に応じて精算を求められます。合意がない場合は法定相続分を目安に話し合うのが一般的です。請求をスムーズにするため、領収書と支払い明細を残しておいてください。
司法書士や税理士への報酬は経費で落とせますか。
相続税の計算では、登記費用や専門家報酬は原則として差し引けません。差し引けるのは被相続人の債務と葬式費用です。個人の相続手続き費用を所得税の必要経費にすることも通常はできませんが、賃貸不動産など収益財産が絡む場合は扱いが分かれるため税理士に確認してください。
相続放棄を考えていますが、費用を立て替えても大丈夫ですか。
相続財産を使って費用を支払うと、相続を承認したとみなされ、放棄ができなくなるおそれがあります。相続放棄を検討している段階では、遺産に手をつける前に専門家へ相談するのが安全です。相続放棄の申述は、自分のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内です。
負担割合でもめたときはどうすればいいですか。
まずは法定相続分を基準に話し合うのが基本です。感情的な対立に発展して分割自体がまとまらない場合は、弁護士に相談し、必要に応じて家庭裁判所の調停を利用する方法があります。費用より解決の優先度が高い局面です。
参考・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.7191(相続登記の登録免許税): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
- 裁判所「相続の放棄の申述」: https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
- 法務省「相続登記の申請義務化」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
- 日本司法書士会連合会「報酬に関するアンケート」(2024年3月実施): https://www.shiho-shoshi.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/11/2a2e2c594bc4cd9ff2ca0f6d916db85e.pdf
情報は2026年9月時点のものです。相続税や登録免許税の扱いは税制改正で変わることがあり、費用負担や経費計上の判断は個別事情で異なります。実際の手続きの際は各官公庁の最新情報と、司法書士・税理士など専門家の確認をご利用ください。

