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認知症になる前の対策として親の自宅と預金を子に託す家族信託(家族の一人を受託者にして財産の管理・処分を任せる仕組み)を組んだあと、「やはり収益物件も入れたい」「受託者を別の子に替えたい」と思っても、思ったように直せないことがあります。委託者である親がすでに判断能力を失っていたり、亡くなっていたりすると、あとから条項を書き換える相手がいなくなるためです。家族信託の失敗の多くは、運用中のトラブルではなく、最初の契約設計の甘さに集約されます。選ぶ基準は一つで、「変更できないことを前提に、将来起こりうる事態まで織り込んで契約書を作れているか」です。ここでは費用相場(別記事で扱います)ではなく、契約設計でつまずく点に絞って整理します。
「契約後に変更できない」といわれる理由(信託法149条)

家族信託の変更は、原則として委託者・受託者・受益者の三者の合意が必要です(信託法149条1項)。当事者が全員そろって「こう直そう」と合意できるうちは柔軟に見えますが、実際に変更したくなる場面は、多くが親(委託者兼受益者)の認知症発症後や死亡後です。合意すべき当事者が欠けると、条項の追加や受託者の交代がスムーズに進まなくなります。
契約書のなかで「委託者と受託者の合意で変更できる」「受託者の書面のみで一定範囲を変更できる」といった変更方法をあらかじめ定めておくこともできます(149条4項)。逆に、この定めを置き忘れると、いざというときに原則どおり三者合意しか使えず、事実上変更が固まってしまいます。家族信託が硬直的だと語られるのは制度の欠陥ではなく、契約書に将来の「変えしろ」を書き込まなかった設計上の失敗であることがほとんどです。
実際に問題になった契約設計の失敗パターン
遺留分への配慮を欠いた設計(東京地裁平成30年9月12日判決)
公表されている裁判例として、東京地方裁判所平成30年9月12日判決があります。父が生前に家族信託を設定し、財産の大半を特定の子に集める内容にしたところ、他の相続人が争った事案です。判決の要旨として広く報じられているのは、経済的な利益の分配がおよそ想定されない財産まで信託財産に組み込んだ部分について、遺留分(一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分)の制度を潜脱する目的があるとして、公序良俗に反し無効と判断された点です。信託を使えば遺留分を回避できるという設計は、後から覆されるおそれがあることを示した例といえます。個別の事案ごとに判断は異なるため、遺留分を意識した設計は専門家と詰めておくのが安全です。
なお遺留分侵害額請求には期限があり、権利者が相続開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年で時効消滅します(民法1048条)。信託を組んでも、この請求権そのものが消えるわけではありません。
受託者の「その先」を決めていない
財産を管理する受託者(多くは子)が、委託者より先に亡くなる、あるいは病気で管理できなくなる事態を想定していない契約も失敗の典型です。後任の受託者(第二受託者)を定めていないと、受託者が不在になった時点で信託が宙に浮きます。信託法上、受託者が欠けた状態が一定期間続くと信託は終了しうるため、当初の目的を果たせなくなります。
信託口口座や登記を整えていない
受託者の個人口座で信託財産の金銭を管理すると、受託者自身の財産と混ざり、受託者が亡くなった際に相続財産として凍結されるおそれがあります。金融機関で信託口口座を開設し、不動産は信託を原因とする登記を入れて、財産を明確に分けておく必要があります。ここを省くと、せっかくの信託が形だけになりかねません。
契約前に確認する判断フロー

着手前に、次の順で「変更できない前提」に耐える設計かを確認します。一つでも詰められない項目があれば、契約書の作り直しを検討します。
- 変更方法を契約書に定めたか(149条の原則より柔軟な変更条項を置いたか)
- 受託者が先に欠けた場合の第二受託者を指定したか
- 遺留分を持つ相続人がいるか、その取り分に配慮した内容か
- 信託口口座の開設と不動産の信託登記まで段取りしたか
- 信託を終える条件(いつ・誰の判断で終了するか)を明記したか
変更・終了はどこまで可能か(149条・163条)
変更と終了それぞれの原則を、信託法の条文で整理します。契約書に別段の定めを置けば、この原則を修正できます。
| 場面 | 原則のルール | 根拠 |
|---|---|---|
| 信託内容の変更 | 委託者・受託者・受益者の合意が原則。契約書に別段の定めがあればその方法による | 信託法149条 |
| 信託の終了 | 委託者と受益者の合意でいつでも終了できるほか、目的の達成・不達成、信託財産が費用に不足する場合など法定事由でも終了する | 信託法163条・164条 |
広告この記事の結論:相続手続きのnocos
契約後に内容を変えにくい家族信託は設計段階の相談が重要なため、専門家が在籍する窓口に相談する方法もあります。
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ポイントは、変更は関係者がそろっている前提の制度だという点です。合意できる人が減る将来に備え、誰の判断で何を変えられるかを最初の契約書に書き込むことが、失敗を避ける最大の対策になります。
専門家に頼む前に押さえておくこと

家族信託は司法書士や弁護士が設計を担うことが多く、費用は財産額などで変わります(金額の目安は費用相場の記事で扱います)。名義変更などの一般的な相続手続きにかかる実費の全体像は、相続手続きの費用相場の記事で確認できます。信託は「安く組む」より「変えられない前提で正しく組む」ことにお金と手間をかける対象だと考えると、依頼先の選び方を誤りにくくなります。
よくある質問
家族信託は契約したら一切変更できないのですか
いいえ。関係者の合意や契約書に定めた方法があれば変更できます(信託法149条)。問題になるのは、委託者が認知症や死亡で合意に加われなくなった後です。変更条項をあらかじめ置いておけば、この事態にも備えられます。
家族信託で遺留分を回避できますか
回避を狙った設計は否定されるおそれがあります。東京地裁平成30年9月12日判決では、遺留分の潜脱を目的とした部分が公序良俗違反で無効とされました。遺留分に配慮した内容にしておくのが安全です。
受託者が先に亡くなったらどうなりますか
後任の受託者を定めていれば引き継げますが、定めがないと受託者不在となり、その状態が続くと信託が終了しうる点に注意が必要です。契約時に第二受託者まで決めておくのが基本です。
信託の内容を変えたいとき、誰の合意が要りますか
原則は委託者・受託者・受益者の三者です。ただし契約書で「委託者と受託者の合意でよい」などと別段の定めを置けば、その方法によります(信託法149条)。
家族信託はいつ終わりますか
委託者と受益者の合意による終了のほか、信託の目的を達成した場合や達成できなくなった場合など、法律で定めた事由でも終了します(信託法163条・164条)。終了条件は契約書に明記しておくと安心です。
費用はどれくらいかかりますか
財産の内容や依頼先で幅があり、本記事では扱いません。金額の考え方は費用相場を扱う別記事を参照してください。設計の質にお金をかける対象と考えるのが失敗を避けるコツです。
情報は2026年9月時点のものです。法令や個別事案の判断は変わることがあるため、実際の契約前には最新の条文と専門家の助言を確認してください。
参考・出典
- 信託法(平成18年法律第108号)149条・163条・164条 e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/
- 民法1048条(遺留分侵害額請求の期間)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 東京地方裁判所 平成30年9月12日判決(家族信託と遺留分・裁判例検索)https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search

