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親が亡くなり、実家の名義変更や銀行口座の解約を前に、「これは自分でやれるのか、それとも司法書士(登記の専門家)に頼むべきなのか」で手が止まっている方は少なくありません。窓口に一度行けば済むものもあれば、書類を一枚間違えるとやり直しになるものもあり、どこまでを自力でやるかの線引きが最初の関門になります。
結論から言えば、自分でできるかどうかは「相続人どうしがもめていないか」「不動産があるか」「相続税がかかりそうか」の3点で切り分けるのが最も実務的です。この3つがすべて「問題なし」なら、多くの手続きは平日に役所や法務局へ通う時間を作れる人であれば自力で進められます。逆に1つでも当てはまるなら、その部分だけでも専門家に任せたほうが、結果として時間も費用も抑えられることが多くなります。以下で、自分でできる範囲と、専門家が要るケースの見分け方を順に整理します。
相続手続きを自分でできる範囲はどこまでか

相続の手続きは、大きく「戸籍を集めて相続人を確定する」「遺産を分ける話し合いをまとめる」「名義を変える・解約する」という流れで進みます。このうち、定型的で判断の余地が少ない作業ほど、自分でやりやすい部分です。
具体的には、次のような手続きは、相続人どうしの合意ができていれば自力で完結させやすいものです。
- 被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍謄本の取り寄せ
- 預金口座の相続手続き(銀行所定の用紙に相続人全員が署名押印して提出)
- 相続放棄の申述(家庭裁判所へ自分で申立て)
- 自動車の名義変更や、比較的単純な相続登記(不動産の名義変更)
特に相続放棄は費用の面でも自力向きです。家庭裁判所へ納める費用は収入印紙800円(申述人1人につき)と郵便切手だけで、切手の金額は申立てる裁判所によって異なります(2026年9月時点・裁判所公式サイトで確認)。申述先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。書類の様式も裁判所のサイトで公開されているため、期限内であれば本人でも進めやすい手続きの代表格です。
期限のある手続きを先に押さえる
自分でやる・任せるを決める前に、期限だけは真っ先に確認してください。期限を過ぎると選択肢そのものが失われるためです。
- 相続放棄・限定承認: 自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内
- 相続税の申告・納付: 被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内
- 相続登記の申請: 相続の開始を知り、かつ所有権の取得を知った日から3年以内(令和6年4月1日施行の義務化。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料)
3か月や10か月の期限が迫っている状況で「まず自分でやってみて、無理なら頼む」と構えると、判断に時間を使ううちに期限切れになりかねません。残り時間が短いときほど、早めに専門家へ相談する判断が安全側に働きます。
専門家が要るケースの判断フロー
ここが本題です。次の順番で自分の状況を当てはめると、自力で進めてよいか、どの専門家に相談すべきかがはっきりします。上から順に確認してください。
- 相続人どうしで遺産の分け方に争いがあるか。 「はい」なら弁護士へ。話がまとまらない、連絡が取れない相続人がいる、遺留分(一定の相続人に保障された最低限の取り分)を主張したい場合は、交渉や調停を代理できるのは弁護士だけです。遺留分侵害額の請求には、侵害を知った時から1年という期限もあります。
- 相続税がかかりそうか。 遺産の総額が基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えそうなら税理士へ。たとえば相続人が3人なら基礎控除は4,800万円で、これを超える見込みなら申告が必要になり、10か月の申告期限もあります。
- 不動産があるか。 「はい」で、かつ争いも相続税もない場合は司法書士が中心の相談先になります。登記は書類の要件が細かく、権利関係が複雑(相続人が多い、代襲相続がある、古い抵当権が残っている等)だと自力ではつまずきやすい領域です。
- 上のいずれにも当てはまらないか。 争いなし・相続税なし・不動産なし(預貯金や自動車が中心)なら、多くは自力で進められます。戸籍集めや協議書の文面づくりだけを頼みたいなら行政書士という選択肢もあります。
職種の役割を一言で分けると、もめごとの交渉は弁護士、相続税の申告は税理士、不動産の名義変更(登記)は司法書士、書類作成のサポートは行政書士、というのが基本です。「不動産があるのに税理士へ相談してしまった」といった行き違いを避けるため、まず自分の状況がどの軸に当てはまるかを見てから相談先を選ぶと無駄がありません。誰に頼むかの詳しい線引きや費用の全体像は、相続手続きの費用相場をまとめた記事もあわせて確認してください。
自分でやると危ないサインの具体例
次のいずれかに当てはまるときは、途中でつまずいて手戻りになりやすいため、早めに専門家へ切り替える目安になります。
- 相続人が5人を超える、または面識のない相続人がいる
- 不動産が複数の市区町村にまたがる、または未登記の建物がある
- 遺言書があるが内容に納得できない相続人がいる
- 遺産の全体像(どこにいくら預金があるか等)が把握できていない
- 期限まで1か月を切っている
自分でやる場合とプロに頼む場合の費用の内訳

費用は「自分でやっても必ずかかる実費」と「専門家に頼んだときだけ追加でかかる報酬」に分けると比べやすくなります。相続登記を例に、実際の数字で見てみます。
ここでは司法書士会の報酬アンケートと同じ設例、すなわち土地1筆と建物1棟、固定資産税評価額の合計が1,000万円、戸籍等5通の取り寄せ、遺産分割協議書と相続関係説明図の作成、相続人3名のうち1名が単独で相続、というケースで計算します。
| 費目 | 自分でやる場合 | 司法書士に頼む場合 |
|---|---|---|
| 登録免許税(評価額1,000万円×0.4%) | 40,000円 | 40,000円 |
| 戸籍謄本・住民票などの実費 | 数千円程度(通数による) | 数千円程度(通数による) |
| 司法書士報酬 | 0円 | 平均 74,888円 |
| 自分の手間・交通費 | 役所や法務局へ複数回 | ほぼなし |
登録免許税は「不動産の価額(固定資産税評価額)×0.4%(1,000分の4)」と法律で決まっているため、自分でやってもプロに頼んでも同額です。評価額が1,000万円なら4万円になります。差が出るのは司法書士報酬の部分で、上記設例での平均は74,888円です(有効回答1,109件、日本司法書士会連合会2024年3月実施のアンケート)。この金額は登録免許税や戸籍の実費とは別で、相続人や不動産の数が増えれば大きく変わります。
つまり、この設例では「約7.5万円の報酬を払って手間を省くか、自分で法務局に通って報酬分を浮かせるか」という比較になります。土地の価額が100万円以下の場合は登録免許税が免税になる特例(令和9年3月31日まで)もあり、条件によって実費側も変わります。
相続放棄なら差はさらに小さく、自分でやれば収入印紙800円と切手だけで済みます。司法書士に申述書の作成を頼んだ場合の報酬の平均は40,892円(設例付き、同アンケート)で、期限に余裕があり書類の書き方さえ調べられるなら、自力の費用メリットが大きい手続きです。一方、金融機関3口座の解約や名義変更をまとめて任せる遺産承継業務の報酬は平均272,780円(同アンケートの設例)で、手続きの点数が多いほど代行のありがたみと費用がともに大きくなります。
自分の状況に合った専門家を探したい場合は、複数の事務所の見積りを取り寄せて比べるのが確実です。
広告この記事の結論:相続手続きのnocos
もめていなくても、平日に役所や法務局へ通う時間が取れない、手続きの点数が多いといった場合は、複数の専門家が在籍する窓口にまとめて依頼する選択肢があります。
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手続き別・自分でできるかの目安一覧

主な手続きについて、自力でやりやすいか、専門家が中心になるかの目安をまとめます。あくまで一般的なケースの目安で、事情が複雑なときは専門家の関与が前提になります。
| 手続き | 自力の目安 | 主な相談先 |
|---|---|---|
| 戸籍の収集・相続人の確定 | やりやすい | 行政書士・司法書士 |
| 相続放棄の申述 | やりやすい(印紙800円) | 司法書士・弁護士 |
| 預金口座の解約・名義変更 | 合意があればやりやすい | 行政書士・司法書士 |
| 自動車の名義変更 | やりやすい | 行政書士 |
| 相続登記(不動産の名義変更) | 単純なら可・複雑なら要専門家 | 司法書士 |
| 遺産分割協議書の作成 | 合意があれば可 | 行政書士・司法書士 |
| 相続税の申告 | 基礎控除超で難易度が高い | 税理士 |
| 相続人間の争いの解決 | 自力は困難 | 弁護士 |
よくある質問
相続手続きは全部自分でやっても違法になりませんか
相続人本人が自分の相続について手続きをすることは問題ありません。戸籍集め、預金解約、相続放棄の申立て、相続登記などは本人申請が認められています。他人の手続きを報酬をもらって代行するには資格が要りますが、自分の分を自分でやる範囲では資格は不要です。
相続登記は本当に自分でできますか
相続人が少なく、不動産が1か所で権利関係が単純なケースなら、法務局の相談窓口を利用しながら自力で申請している人もいます。ただし書類の要件は細かく、相続人が多い、代襲相続がある、古い権利が残っているといった事情があると難易度が上がります。登録免許税は評価額の0.4%で自力でも同額なので、手間と正確さのどちらを取るかで判断してください。
専門家に頼むと自分でやるより高くつきますか
報酬の分だけ支払いは増えますが、登録免許税や戸籍の実費は自力でも同じです。差が出るのは報酬部分だけで、たとえば相続登記の司法書士報酬は設例で平均74,888円です。手戻りややり直しにかかる時間まで含めて考えると、複雑なケースでは任せたほうが結果的に安く済むこともあります。
相続税がかかるかどうかは自分で判断できますか
遺産の総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるかどうかがおおまかな目安です。相続人が3人なら4,800万円が基準になります。不動産の評価は自分では算定が難しいため、超えそうな場合は10か月の申告期限を意識して早めに税理士へ相談してください。
期限を過ぎてしまったらどうなりますか
相続放棄は原則3か月を過ぎると認められにくくなり、相続税は10か月を過ぎると加算税や延滞税がかかる場合があります。相続登記は3年以内の申請が義務化され、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です。期限が迫っているときは自力にこだわらず、まず専門家に相談するのが安全です。
もめていない家族でも専門家に頼む意味はありますか
あります。争いがなくても、平日に役所や法務局へ通う時間が取れない、書類の正確さに自信がない、遺産の点数が多いといった場合は、手間を買う意味で依頼する価値があります。逆に時間が取れて手続きが単純なら、自力で報酬分を抑える選択も十分に現実的です。
参考・出典
- 法務省「相続登記の申請義務化」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
- 国税庁 タックスアンサー No.7191(登録免許税の税額表) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
- 裁判所「相続の放棄の申述」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
- 国税庁 タックスアンサー No.4205(相続税の申告と納税) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.4152(相続税の計算・基礎控除) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
- 日本司法書士会連合会「報酬に関するアンケート」(2024年3月実施) https://www.shiho-shoshi.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/11/2a2e2c594bc4cd9ff2ca0f6d916db85e.pdf
- 民法1048条(遺留分侵害額請求の期間・e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

