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一人暮らしだった叔父が亡くなり、配偶者も子もなく、きょうだいもすでに他界していた。あとに残ったのは古い実家と少しの預金、そして誰も手をつけられないままの家財。このように、亡くなった方(被相続人)に法律上の相続人が一人もいないと、財産はいわば宙に浮いた状態になります。誰かが勝手に処分することはできず、家庭裁判所(相続に関する審判や手続きを扱う裁判所)に「相続財産清算人(そうぞくざいさんせいさんにん)」を選んでもらって、法律の手続きに沿って整理していくことになります。
この記事を最初に読むうえでの結論を先に置きます。判断の基準は三つです。第一に、本当に相続人がいないのか、それとも見つかっていないだけなのかを先に確かめること。第二に、清算人を立てる必要が本当にあるのか(財産がほとんどなければ申立て自体を見送る選択もあります)を、かかる費用と得られる結果で比べること。第三に、内縁の配偶者や生前に世話をした人など「特別縁故者(とくべつえんこしゃ)」として財産を受け取れる可能性がある人は、分与が認められるまでにかなりの時間がかかることを見込んで動くこと。以下で、費用の内訳と手続きの流れを順に整理します。
「相続人がいない」とはどういう状態か

法律でいう相続人不存在(そうぞくにんふそんざい)は、単に連絡が取れないという意味ではありません。戸籍をたどっても相続人にあたる人が一人も存在しないか、存在しても全員が相続放棄をして誰も相続しなくなった状態を指します。配偶者・子・親・きょうだい(およびその代わりに相続する甥姪など)という順位のいずれにも該当者がいないことを、戸籍で確認して初めて「いない」と扱われます。
相続人がいなくなると、残された財産はそのままでは持ち主のいない状態になるため、法律上「相続財産法人(そうぞくざいさんほうじん)」という一つのまとまり(法人)として扱われます(民法951条)。この法人の財産を管理し、債権者への支払いや残余財産の帰属先の確定までを担う人として選ばれるのが、相続財産清算人です。
全員が相続放棄して相続人がいなくなった場合
借金の方が多いなどの理由で、相続人が次々に相続放棄(相続する権利も義務も手放す手続き)をしていくと、最終的に誰も相続する人が残らないことがあります。この場合も相続人不存在にあたり、清算人の選任が必要になり得ます。相続放棄そのものの手続きや費用は別のテーマなので、ここでは深入りしません。放棄によって管理義務や空き家がどうなるかが気になる場合は、それぞれの専門記事で確認してください。
相続人が「いない」のか「不明」なのかを区別する
相続人がいるかもしれないが所在がわからない、というケースは相続人不存在とは異なります。生存している相続人が行方不明なだけであれば、不在者財産管理人の申立てなど別の手続きが検討対象になります。清算人の選任は、あくまで相続人が誰もいないと確認できたときの手続きだと押さえておきます。
相続財産清算人とは(旧・相続財産管理人)
相続財産清算人は、以前は「相続財産管理人」と呼ばれていました。民法などの改正により、令和5年(2023年)4月1日から名称と手続きが見直され、公告(かんこく。関係者に知らせるための官報などでの告知)の進め方が整理されました。名称が変わっただけでなく、複数回に分けて行っていた公告をまとめて行えるようになり、手続きにかかる期間の短縮がはかられています。改正後の具体的な公告期間や手順は、家庭裁判所の案内で最新のものを確認する必要があります。
選任を申し立てられるのは、被相続人の債権者(お金を貸していた人など)、特定の財産の遺贈を受けた人、特別縁故者になり得る人といった「利害関係人」と、検察官です。申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
選任申立てにかかる費用の内訳
費用は大きく分けて、裁判所に納める実費と、清算人の活動を支えるための予納金、そして自分で手続きをせず専門家に依頼する場合の報酬の三つに分かれます。相続財産清算人に固有の各金額は、この記事の元にしている公式資料には含まれていないため、具体的な数字は家庭裁判所の案内で確認したうえで見積もってください。ここでは、何にお金がかかるのかという内訳の骨組みを示します。
- 申立ての手数料(収入印紙): 申立書に貼る収入印紙。
- 連絡用の郵便切手: 裁判所からの連絡に使う切手。金額と組み合わせは裁判所により異なる。
- 官報公告料: 関係者に知らせる公告を官報に載せるための費用。
- 予納金(よのうきん): 清算人の報酬や事務費用に充てるため、申立人があらかじめ裁判所に納めるお金。財産の内容や見込まれる作業量によって額が判断される。
- 専門家への報酬: 申立書の作成や必要書類の収集を司法書士などに依頼する場合の費用。事務所ごとに料金が異なり、公的な相場統計はないため、複数の見積りで比べる。
予納金は、相続財産の中から十分な費用が出せない場合に備えた立替えの性格があります。最終的に財産から清算人の報酬などがまかなえたときは、納めた予納金の全部または一部が申立人に戻ることがあります。逆に財産がごくわずかなら、予納金が戻らないまま費用倒れになる可能性もあるため、申立ての前に「財産と費用のどちらが大きいか」を冷静に見積もることが大切です。
申立てをするかどうかの判断フロー

清算人の選任は、必ずしも全員に必要な手続きではありません。次の順で考えると、動くべきかどうかを整理できます。
- 戸籍をたどって相続人が本当にいないか確認する。いれば清算人の手続きは不要。
- 被相続人にお金を貸していた、遺贈を受けた、特別縁故者にあたるなど、申立てをする利害があるか確認する。利害がなければ申立人になれない。
- 財産に不動産や一定の預貯金があり、清算・分配・国庫帰属まで進める実益があるか。財産がほとんどないなら、費用に見合わないことがある。
- 上の三つがそろえば、家庭裁判所への選任申立てを検討する。自分で書類を用意するか、司法書士などに依頼するかは、費用と手間の比較で決める。
不動産が含まれ、清算人が売却して現金化するような場合は、名義変更(相続登記)にかかる登録免許税など、通常の相続手続きと共通する費用も別途かかります。清算人固有の費用と切り分けて考える必要があるため、一般的な相続手続きの費用感は相続手続きの費用相場をまとめた記事もあわせて確認してください。
選任後の流れと、時間がかかる理由
清算人が選ばれてから財産の帰属が決まるまでは、いくつもの公告と待機期間を挟むため、思っている以上に時間がかかります。改正後は公告をまとめて行えるようになったものの、それでも一定の期間は必ず経過を待つ必要があります。おおまかな流れは次のとおりです。
- 清算人の選任と公告: 家庭裁判所が清算人を選び、清算人が選ばれたことと、相続人がいれば申し出るよう求める公告が行われる。
- 債権者・受遺者への公告: お金を貸していた人や遺贈を受けた人に、期間内に申し出るよう知らせる。
- 債務の弁済: 申し出のあった債権者などへ、財産の中から順に支払いをする。
- 相続人の不存在の確定: 公告期間が過ぎても相続人が現れなければ、相続人がいないことが法律上確定する。
- 特別縁故者からの申立て: 特別縁故者にあたる人は、この確定後、定められた期間内に財産の分与を申し立てられる。
- 残った財産の国庫帰属: 特別縁故者への分与がされず財産が残れば、最終的に国のもの(国庫)になる。
それぞれの段階で待機期間が積み重なるため、選任から国庫帰属や分与の確定までは、短くても相応の月数を要します。特に「特別縁故者への分与」を目指す人にとっては、公告期間の経過を待ってから申立てをする順番になるため、生活の見通しを立てるうえでこの期間の長さを織り込んでおくことが重要です。
特別縁故者への財産分与
特別縁故者とは、法律上の相続人ではないものの、被相続人と特別に近い関係にあった人を指します。たとえば、婚姻届を出していない内縁の配偶者、生前に生活をともにしていた人、療養看護に努めた人などが該当し得ます。該当するかどうかは、家庭裁判所が個々の事情をみて判断します。
特別縁故者として財産を受け取りたい場合は、相続人不存在が確定した後、定められた期間内に家庭裁判所へ分与の申立てをする必要があります。この期間を過ぎると申立てができなくなるため、清算人の手続きの進み具合を把握しておくことが欠かせません。申立てが認められれば、財産の全部または一部が分与され、認められなければその財産は国庫に入ることになります。
誰も受け取らない財産のゆくえ

債権者への支払いも特別縁故者への分与も終えたうえでなお財産が残った場合、その財産は国のもの(国庫帰属)になります。ただし、被相続人が誰かと共有していた財産(共有持分)については、国庫ではなく他の共有者に帰属する扱いになる点が例外です。「残った財産は必ず国に行く」と単純に考えず、財産の持ち方によって帰属先が変わることを押さえておきます。
よくある質問
相続人が全員相続放棄したら、家の手続きは誰がするのですか
相続人が全員放棄して誰もいなくなった場合は、相続人不存在にあたります。債権者などの利害関係人が家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立て、選ばれた清算人が管理や清算を行います。放棄した人が引き続き手続きを担うわけではありませんが、放棄後の管理義務が問題になる場面もあるため、状況に応じて確認が必要です。
清算人は誰が申し立てられますか
被相続人の債権者、遺贈を受けた人、特別縁故者になり得る人などの利害関係人と、検察官が申し立てられます。まったく無関係の第三者が申し立てることはできません。
費用は誰が負担するのですか
申立ての実費や予納金は、まず申立人が用意します。清算の結果、相続財産の中から清算人の報酬などをまかなえる場合には、納めた予納金が戻ることがあります。財産が少なければ戻らないこともあるため、事前に見込みを立てておくと安心です。具体的な予納金の額は家庭裁判所で確認してください。
内縁の配偶者は財産を受け取れますか
婚姻届を出していない内縁の配偶者は相続人にはなれませんが、特別縁故者として財産分与を受けられる可能性があります。相続人不存在の確定後、期間内に家庭裁判所へ申し立て、事情が認められれば分与されます。認められるかどうかは個々の事情次第です。
手続きにはどれくらい時間がかかりますか
清算人の選任後、複数の公告期間や特別縁故者の申立て期間を経るため、財産の帰属が確定するまでには相応の月数がかかります。令和5年4月の改正で公告をまとめられるようになり以前より短縮されましたが、それでも短期間で終わるものではありません。正確な期間は最新の裁判所の案内で確認してください。
財産より借金の方が多い場合はどうなりますか
清算人が財産を換価して、申し出のあった債権者へ順に支払います。財産で払いきれない借金が、相続人でない人に引き継がれることはありません。ただし、財産が少ないと予納金が戻らず費用倒れになることがあるため、申立ての実益をよく検討する必要があります。
遺言があれば清算人は不要ですか
有効な遺言で財産の受取人や遺言執行者が定められていれば、その内容に沿って手続きが進むため、清算人の選任が不要になる場合があります。もっとも、遺言でカバーされない財産が残るなど、状況によっては手続きが必要になることもあるため、個別に確認するのが確実です。
参考・出典
- 民法(相続財産法人・相続人不存在・特別縁故者に関する規定)/e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 裁判所(家庭裁判所の各種申立てに関する案内)/裁判所ウェブサイト https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
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相続人がいない場合の相続財産清算人の選任は、申立ての利害関係や予納金の見積りなど判断が難しいため、司法書士など専門家が在籍する窓口に相談する方法もあります。
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