相続 生前対策 費用|生前贈与・遺言・信託の比較

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70代になった親が「元気なうちに実家と預金の引き継ぎ方を決めておきたい」と言い出した、あるいは自分自身が子に迷惑をかけない形を考え始めた。そんなとき候補に挙がるのが、生前贈与・遺言・家族信託の3つです。どれも「相続でもめない・手続きで困らない」ための備えですが、かかる費用も、認知症になったときに使えるかどうかも大きく違います。この記事では、公的なデータで確認できる範囲の費用を並べ、どの手段をどんな人が選べばよいかを整理します。

生前対策は「目的」で手段が決まり、費用はその後から決まる

高齢者の手と、木製の卓上の品々
未来を考える静かな時間(イメージ)

結論を先に言うと、費用の安さだけで手段を選ぶと失敗しやすいです。3つの手段は「安い順に並ぶ選択肢」ではなく、それぞれ解決できる問題が違うからです。判断の基準はおおむね次の3点になります。第一に「誰に・いつ渡したいか」(生きているうちに渡すのか、亡くなった後でよいのか)、第二に「認知症など判断能力の低下に備える必要があるか」、第三に「もめる可能性がどれくらいあるか」です。この目的が決まると手段はほぼ絞られ、費用はその結果として付いてきます。以下、手段ごとに費用の中身を見ていきます。

生前贈与の費用|不動産は登録免許税が相続の5倍かかる

生前贈与は、親が生きているうちに財産を子などへ渡す方法です。渡したい相手に確実に渡せる反面、不動産を贈与すると税金の負担が相続より重くなる点に注意が必要です。

不動産の名義変更で法務局に納める登録免許税(名義変更にかかる国税)は、相続と贈与で税率が異なります。国税庁の案内では、相続による移転は不動産の価額(固定資産税評価額)の0.4%(1,000分の4)、贈与による移転は2%(1,000分の20)です(2026年9月時点・国税庁タックスアンサーNo.7191)。

実家(固定資産税評価額1,000万円と仮定)の名義を子に移す場合を計算すると、次のようになります。

  • 親の死亡後に相続で移す場合の登録免許税: 1,000万円 × 0.4% = 4万円
  • 親が生きているうちに贈与で移す場合の登録免許税: 1,000万円 × 2% = 20万円

同じ不動産でも、生前贈与にすると登録免許税だけで16万円多くかかります。さらに贈与には贈与税がかかる場合があり、暦年課税や相続時精算課税といった制度の選び方で税額が大きく変わります。このため不動産の生前贈与を検討するときは、税理士に試算してもらってから判断するのが安全です。名義変更を司法書士に依頼する場合は、この税金とは別に司法書士報酬が加わります。

遺言書の費用|公正証書のサポートは司法書士で平均約6万円

公証役場で専門家が説明する様子
遺言書の相談風景(イメージ)

遺言は、亡くなった後に「誰に何を渡すか」を法的に決めておく方法です。生きているうちは財産がそのまま自分のもので、贈与税や登録免許税が先に出ていくこともありません。費用は「どの形式の遺言にするか」「専門家にどこまで頼むか」で変わります。

遺言には主に、自分で全文を書く自筆証書遺言と、公証役場で公証人に作ってもらう公正証書遺言があります。公正証書遺言は不備で無効になりにくく、専門家のサポートを付ける人が多い形式です。専門家に原案づくりから頼んだ場合の報酬の目安は次のとおりです。

  • 司法書士に公正証書遺言のサポート(原案の起案・公証役場への同行・立会証人)を頼んだ場合: 平均62,193円(遺言執行者の報酬は含まず。日本司法書士会連合会2024年アンケート)
  • 行政書士に遺言書の起案および作成指導を頼んだ場合: 平均76,855円・最頻値50,000円(日本行政書士会連合会 令和7年度統計)
  • 弁護士に定型的な公正証書遺言(資産5,000万円の設例)を頼んだ場合: 作成手数料は「10万円」が51%、「20万円」が30%(日本弁護士連合会の2008年度アンケート・やや古い調査)

上記はいずれも2026年9月時点で公表資料を確認した数値ですが、調査の年度も設例(財産額や作業内容)も職種ごとに異なるため、同じ条件で横並び比較した金額ではありません。加えて、公正証書遺言では公証役場に支払う手数料が別途かかります。現在の正確な費用は、依頼先の見積りで確認してください。遺言書そのものの費用の詳細は、遺言書の作成費用を扱った別の記事でも触れています。

家族信託の費用|認知症対策に強いが設計コストがかかる

家族信託(かぞくしんたく=財産の管理を信頼できる家族に託しておく契約の仕組み)は、親が認知症などで判断能力を失った後も、託された家族が実家の売却や預金の管理を続けられるようにしておく方法です。生前贈与や遺言では対応しにくい「判断能力の低下後の財産凍結」に備えられる点が最大の特長です。

一方で費用は3手段のなかで最も複雑です。信託の設計に対する専門家報酬に加え、契約内容を公正証書にする費用、信託財産に不動産が含まれる場合の信託登記の費用などが積み上がります。家族信託の報酬には公的な相場統計がなく、託す財産の額や内容で大きく変わるため、この記事では具体的な金額は示しません。家族信託の費用相場は、それを専門に扱った別の記事で解説しています。検討する場合は、必ず複数の事務所から見積りを取って比較してください。

生前贈与・遺言・家族信託の費用と向き不向きの比較

3手段の費用の性格と、認知症への備えになるかどうかを一覧にすると次のようになります。金額は本文で示した公表データに基づく目安で、条件によって変わります。

手段 主な費用 費用の目安 認知症への備え 向いているケース
生前贈与 登録免許税(不動産2%)・贈与税・専門家報酬 1,000万円の不動産で登録免許税20万円+贈与税ほか 渡し終えれば有効 特定の相手に生きているうちに確実に渡したい
遺言(公正証書) 専門家のサポート報酬・公証役場の手数料 司法書士のサポート平均約6.2万円+公証人手数料 作成後に判断能力が下がっても有効 亡くなった後の分け方を明確に決めておきたい
家族信託 設計報酬・契約書の公正証書化・信託登記 財産額により変動(公的な相場統計なし) 判断能力低下後も家族が管理を継続できる 認知症後も実家の売却や資産管理を続けたい

どの手段を選ぶ?条件から絞る判断フロー

高齢者の手が書類に添えられた木製テーブル
将来を考える静かな時間(イメージ)

迷ったときは、次の順で条件を当てはめると手段が絞れます。

認知症になった後の財産管理まで備えたいか

備えたいなら家族信託が第一候補です。遺言は「亡くなった後」に効き始めるため、判断能力が下がってから亡くなるまでの期間の財産凍結には対応できません。生前贈与は渡し終えていれば有効ですが、渡す時点で判断能力が必要です。

生きているうちに確実に渡したいか、亡くなった後でよいか

生きているうちに特定の相手へ渡したいなら生前贈与です。ただし不動産は登録免許税と贈与税の負担が重くなるため、税理士の試算とセットで検討します。亡くなった後の分け方を決めておくだけでよいなら、費用を先に払わずに済む遺言が手軽です。

もめる可能性が高いか

相続人どうしで争いになりそうなら、法的に効力の強い公正証書遺言を軸にし、内容の設計を専門家に依頼するのが無難です。財産の管理まで含めて長期的に固めたい場合は、遺言と家族信託を組み合わせることもあります。なお、こうした生前対策とは別に、相続が起きた後の名義変更などにかかる手続き費用(実家の名義変更は約11万円が目安)については、相続手続きの費用相場をまとめた比較記事で確認できます。

よくある質問

生前贈与と相続、費用が安いのはどちらですか

不動産に関しては、税金だけで見れば相続のほうが安くなるのが一般的です。名義変更の登録免許税は相続0.4%に対し贈与2%で、1,000万円の不動産なら4万円と20万円の差になります(2026年9月時点・国税庁No.7191)。ただし「安いか」より「いつ・誰に渡したいか」で選ぶのが本来の判断です。

遺言書は自分で書けば費用はかかりませんか

自筆証書遺言なら作成そのものに専門家費用はかかりませんが、形式の不備で無効になるリスクや保管の問題があります。公正証書遺言にすると安全性は高まる一方、公証役場の手数料と、専門家に頼む場合の報酬(司法書士サポートで平均約6.2万円)がかかります。安全性と費用のどちらを優先するかで選びます。

家族信託はどんな人に向いていますか

親が認知症などになった後も、実家の売却や預金の管理を家族が続けられるようにしておきたい人に向いています。遺言や生前贈与では対応しにくい「判断能力低下後の財産凍結」に備えられるのが強みです。ただし設計費用がかかるため、複数の見積りで比較してください。

生前対策の費用は親と子のどちらが払うべきですか

法律で決まっているわけではなく、財産を持つ本人(親)が払う例も、対策で恩恵を受ける子が負担する例もあります。誰が払うと損をしにくいかは家庭ごとに事情が異なるため、事前に話し合って決めておくと後のトラブルを避けられます。

3つの手段は組み合わせられますか

組み合わせられます。たとえば財産の管理は家族信託で備え、信託に入れない財産の分け方は遺言で決める、といった併用がよく行われます。それぞれに費用がかかるため、全体でいくらになるかを見積り段階で確認しておくことが大切です。

いつから始めるべきですか

いずれの手段も、本人に十分な判断能力があるうちでないと成立しません。認知症などで判断能力が低下すると、生前贈与・遺言・家族信託のどれも新たに行うことが難しくなります。元気なうちに、早めに専門家へ相談して選択肢を比べておくのが安全です。

参考・出典

  • 国税庁 タックスアンサー No.7191(登録免許税の税額表・相続0.4%/贈与2%) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.4152(相続税の基礎控除額) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
  • 日本司法書士会連合会「報酬に関するアンケート」(2024年3月実施・遺言公正証書サポートの目安) https://www.shiho-shoshi.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/11/2a2e2c594bc4cd9ff2ca0f6d916db85e.pdf
  • 日本行政書士会連合会「令和7年度報酬額統計調査の結果」(遺言書の起案及び作成指導) https://www.gyosei.or.jp/about/disclosure/reward
  • 日本弁護士連合会「市民のための弁護士報酬ガイド 2008年度アンケート結果版」(遺言の作成手数料) https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/jfba_info/publication/pamphlet/attorneys_fee_guide.pdf
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