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父が亡くなり、実家の土地と建物をとりあえず兄弟3人の共有名義(複数人が持分を分け合って一つの不動産を所有する形)にした。当面は誰も困らないし、平等で角も立たない。多くの家庭でこの選択がされます。ところが数年後、一人が「売って現金で分けたい」と言い出したとき、あるいは共有者の一人が亡くなってその子どもたちに持分が移ったとき、共有名義は急に重くなります。売るにも貸すにも全員の合意が要るのに、関係者の人数だけが世代ごとに増えていくからです。
結論から言えば、相続不動産を共有名義にするかどうかは「近いうちに売る予定があるか」「相続人どうしが将来も連絡を取り合えるか」で判断します。売却や活用の見込みがあるなら、共有のままにせず、代表者一人の名義にして代わりに現金で精算する方法(代償分割)を優先するのが安全です。すでに共有になっている場合は、人数が少ないうちに解消しておくほど費用も手間も軽く済みます。この記事では、共有名義のデメリットが「次の世代で人数が増える」という構造から生まれることを数字で示し、共有物分割請求や令和5年施行の新しい制度まで、解消の道筋を順に整理します。
共有名義が「今は平等」でも将来もめる理由

不動産の共有は、民法249条以下にルールが定められています。ポイントは、共有物に対してできることが行為の重さで三段階に分かれている点です。
- 保存行為(現状を維持する修繕など)は、各共有者が単独でできます。
- 管理行為(賃貸に出すなど)は、持分の価格の過半数で決めます(民法252条)。
- 変更・処分(売却、建て替え、大規模改修など)は、共有者全員の同意が必要です(民法251条)。
問題になりやすいのが最後の「全員同意」です。実家を売る、取り壊す、担保に入れるといった一番大きな決断ほど、一人でも反対すれば前に進みません。今は3人が仲良く「平等でいい」と思っていても、その平等が、将来一人でも意見を変えたときに全体を止める仕組みへと変わります。共有は関係が良好なうちは平和ですが、意見が割れた瞬間にもっとも動かしにくい所有形態になるのです。
相続した不動産を共有名義にする5つのデメリット
共有名義の負担を、実務で困る順に整理します。
| デメリット | 何が起きるか |
|---|---|
| 売却に全員同意が要る | 一人でも反対・非協力だと、実家全体を売れない。空き家のまま固定資産税だけがかかり続ける。 |
| 活用・改修も自由にできない | 賃貸は過半数、建て替えは全員同意。修繕費や管理の分担でももめやすい。 |
| 費用が重なる | 相続登記のたびに登録免許税や専門家報酬がかかる。世代をまたぐと同じ不動産に何度も費用が発生する。 |
| 相続の連鎖で人数が増える | 共有者が亡くなるたび、その持分がさらに複数の相続人へ分かれる。合意形成の相手が増え続ける。 |
| 所在不明の共有者が生まれる | 世代が進むと、面識のない遠縁が共有者になり、連絡先すら分からなくなる。手続きが完全に止まる。 |
広告この記事の結論:相続手続きのnocos
共有名義は世代を経るほど共有者が増え、所在不明の共有者が生まれると手続きが止まりかねないため、解消の進め方を専門家が在籍する窓口に相談する方法もあります。
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この5つはばらばらの問題ではなく、4番目の「相続の連鎖で人数が増える」がすべての引き金になっています。次にその構造を数字で見ます。
次の世代で共有者が増える仕組みを数字で見る

共有名義の一番の怖さは、放置すると相手が算数のように増えていくことです。評価額1,000万円の実家を、兄弟3人(A・B・C)が各3分の1で共有した場合を例にします。
- 相続直後:共有者は A・B・C の3人。持分は各3分の1。
- Aが死亡(子2人):Aの3分の1が子2人へ移り、各6分の1に。共有者は4人。
- Bが死亡(子3人):Bの3分の1が子3人へ移り、各9分の1に。共有者は6人。
- Cが死亡(子2人):Cの3分の1が子2人へ移る。共有者は合計7人。
最初は兄弟3人だったものが、二世代進んだだけで7人になりました。この7人は互いにいとこ同士で、疎遠になっていることも珍しくありません。実家を売るには、この7人全員の同意と署名・実印・印鑑証明が必要です。一人でも「知らない」「面倒だ」「もっと高く売れるはず」と言えば、話は止まります。
費用も重なります。相続登記の登録免許税は「不動産の価額(固定資産税評価額)×0.4%」です(国税庁タックスアンサーNo.7191、2026年9月時点)。評価額1,000万円なら1回あたり約4万円ですが、世代をまたいで持分が動くたびに、その持分に対して登録免許税と手続きの手間が繰り返し発生します。共有を放置することは、費用の先送りではなく、費用と関係者の増殖を意味します。
共有を解消する4つの方法と選び方
共有の解消とは、最終的に「その不動産を一人の単独名義にするか、現金に換えて分ける」ことです。方法は大きく4つあります。
1. 代償分割(一人が引き継ぎ、他へ現金で払う)
実家に住み続けたい人がいる場合の第一候補です。代表者が単独で相続する代わりに、他の共有者へ持分相当額を現金で支払います。不動産を割らずに済み、住まいも守れますが、支払う側にまとまった資金が要ります。
2. 換価分割(売って現金で分ける)
誰も住まない実家に向く方法です。共有のまま、あるいは一度代表者名義にまとめてから売却し、代金を持分に応じて分けます。全員が現金で平等に受け取れる一方、売却には結局全員の同意が必要です。
3. 持分の買い取り・放棄
共有者の一人が他の持分を買い取って集約する、あるいは持分を他の共有者に譲るやり方です。全員でなく当事者間で進められますが、価格の折り合いがつかないと成立しません。
4. 共有物分割請求(話し合いで決まらないとき)
協議がまとまらない場合の最終手段です。次のH2で詳しく扱います。
選び方の目安は次の判断フローで整理できます。
- 誰かが住み続けたい、かつ資金がある → 代償分割
- 誰も住まない、全員が売却に賛成 → 換価分割
- 一部の当事者だけで集約したい → 持分の買い取り
- 話し合っても全員の合意が取れない → 共有物分割請求
どの方法でも、最終的には単独名義への相続登記が必要です。名義変更にかかる費用の全体像は、相続手続きの費用相場|実家の名義変更は約11万円が目安で確認できます。なお相続登記は令和6年4月1日から義務化され、相続で所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象になります(法務省、2026年9月時点)。共有のまま放置することは、この義務にも反しかねません。
話し合いで決まらないとき:共有物分割請求という道
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求できます(民法256条)。まずは共有者間の協議で決めますが、協議が調わない、あるいは一部が協議に応じないときは、裁判所に分割を求めることができます(民法258条、共有物分割請求訴訟)。
裁判所が選ぶ分割の方法は主に次の3つです。
- 現物分割:土地を物理的に分ける。広い土地でないと現実的でない。
- 賠償分割(代償分割):一人が取得し、他へ金銭を支払う。
- 換価分割(競売):現物で分けられず賠償も難しいとき、競売にかけて代金を分ける。
訴訟には、訴える不動産の価額に応じた収入印紙代や、相続関係を証明する書類の準備、そして多くの場合は弁護士への依頼が必要になります。参考として、遺産分割の調停を弁護士に依頼した場合の目安は、着手金が「50万円」41%・「30万円」31%、報酬金が「100万円」31%・「180万円」15%という調査があります(日本弁護士連合会の2008年度アンケート、やや古い調査。設例は遺産総額1億円・妻が5,000万円相当を取得。弁護士報酬は2004年以降自由化されており、現在の料金は各事務所の見積りで確認が必要です)。共有物分割訴訟そのものの標準的な費用統計は公表されていないため、依頼前に複数の事務所で見積りを取ることをおすすめします。競売になれば市場価格より安くなりやすく、時間もかかります。訴訟は最後の手段であり、人数が少ないうちの話し合いで解消しておくほうが、金銭的にも精神的にも負担は軽くなります。
連絡の取れない共有者がいるときの新しい制度

世代が進んだ共有で最大の壁になるのが、所在の分からない共有者の存在です。従来は行方不明の相続人がいると手続きが完全に止まりましたが、令和5年4月1日施行の民法262条の2により、一定の要件のもとで、裁判所の決定を得て「所在等不明共有者の持分」を他の共有者が取得できるようになりました(所在等不明共有者の持分取得)。これにより、連絡がつかない一人のために全体が動かせない状態を、裁判所の手続きで解消できる余地が生まれています。
利用には裁判所への申立てと、所在不明であることの調査・供託などが必要で、誰でも簡単に使えるものではありません。ただ、これまで「詰み」だった共有の一部に出口ができた意味は大きい制度です。所在不明の共有者がいて手詰まりになっている場合は、この制度が使えるか、司法書士や弁護士に早めに相談する価値があります。
よくある質問
共有名義のまま何もしないとどうなりますか
共有者が亡くなるたびに持分がさらに複数の相続人へ分かれ、関係者が増えていきます。売却も活用もできないまま固定資産税だけがかかり続け、いずれ所在不明の共有者が現れて手続きが止まるおそれがあります。人数が少ないうちに解消するのが最も費用も手間も軽く済みます。
共有名義でも相続登記は必要ですか
必要です。相続登記は令和6年4月1日から義務化され、取得を知った日から3年以内の申請が求められます。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です(法務省、2026年9月時点)。共有名義にした場合も申請義務は免れません。
自分の持分だけを売ることはできますか
法律上は、自分の持分だけを他人に売ることは可能です。ただし不動産の一部だけを買っても自由に使えないため、一般の買い手はつきにくく、価格も低くなりがちです。現実的には他の共有者との調整で解消するほうが有利なことが多いです。
共有物分割請求をすると必ず売却になりますか
必ずしも売却ではありません。裁判所は現物分割、一人が取得して金銭で精算する賠償分割、競売による換価分割の中から適した方法を選びます。現物で分けられず賠償も難しい場合に、競売による換価となります。
共有を解消する費用はどれくらいかかりますか
単独名義にする相続登記では、登録免許税として固定資産税評価額×0.4%がかかります。司法書士に依頼する場合の報酬の目安は、土地1筆・建物1棟、評価額合計1,000万円、戸籍等5通、相続人3名中1名が単独相続という設例で平均74,888円です(日本司法書士会連合会2024年アンケート、登録免許税や戸籍実費は別。相続人や不動産の数で大きく変わります)。もめて弁護士や訴訟に進むと、さらに費用がかかります。
相続人の一人が認知症や行方不明のときはどうすればよいですか
判断能力がない相続人には成年後見人、行方不明の相続人には不在者財産管理人など、代わりに手続きを進める人を家庭裁判所で選任する必要があります。所在不明の共有者については、令和5年4月1日施行の民法262条の2による持分取得も選択肢になります。いずれも専門家への相談が現実的です。
参考・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.7191(登録免許税の税額表・相続登記の登録免許税): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
- 法務省「相続登記の申請義務化」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
- e-Gov法令検索 民法(共有 249条以下・256条・258条・262条の2、遺留分1048条): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 日本司法書士会連合会「報酬に関するアンケート」(2024年3月実施): https://www.shiho-shoshi.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/11/2a2e2c594bc4cd9ff2ca0f6d916db85e.pdf
- 日本弁護士連合会「市民のための弁護士報酬ガイド 2008年度アンケート結果版」: https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/jfba_info/publication/pamphlet/attorneys_fee_guide.pdf

