相続放棄した土地はどうなる|管理義務と解体費用

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遠方に住む親が亡くなり、誰も住まなくなった実家の土地を相続放棄した。もう自分のものではないと考えていた矢先に、近所の人から「庭木が道路にはみ出している」「塀が傾いて危ない」と連絡が入る。放棄したはずなのに、なぜ自分に連絡が来るのか、と戸惑う場面は少なくありません。

結論から言うと、相続放棄をしても、その土地を放棄のときに現に占有していた場合は、次に引き継ぐ人へ引き渡すまでの間、一定の保存義務が残ります。これを定めているのが民法940条(相続の放棄をした者による管理)です。放棄で「所有者としての立場」は手放せますが、「現に持っている物を最低限守る責任」は自動では消えません。誰に、いつ引き渡せば義務から抜けられるのかを基準に、放棄後の動きを決めていくことになります。

相続放棄すると土地はどうなるのか|すぐ他人のものにはならない

日本の古い家の庭の一角、手入れされていない植栽と石灯籠。
手入れの止まった庭の風景(イメージ)

相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったものとして扱われます。土地を含む被相続人(亡くなった方)の財産を、一切引き継がないという効果です。ただし、放棄した瞬間に土地が消えたり、国や自治体が自動で引き取ったりするわけではありません。

放棄によって相続権は次の順位の相続人へ移ります。次順位の人も放棄すれば、さらにその次へと移り、最終的に相続する人がいなくなると、土地は宙に浮いた状態になります。この段階で必要になるのが、家庭裁判所への相続財産清算人(相続人がいない財産を管理・清算する人)の選任申立てです。清算人が選ばれ、手続きを経て、はじめて土地は国庫(国の財産)へ入っていきます。

つまり「放棄したのだから知らない」で終わらせられないのは、放棄から引き渡しまでの空白期間があるためです。この空白の間の責任範囲を決めているのが、次に見る民法940条です。相続手続き全体の流れや名義変更にかかる費用の目安は、相続手続きの費用相場をまとめた記事で確認できます。

民法940条の保存義務|「現に占有」しているかで変わる

民法940条は、相続放棄をした人が、放棄のときに相続財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産清算人にその財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない、と定めています。「自己の財産におけるのと同一の注意」とは、自分の物を管理するのと同じ程度の注意という意味で、専門家に管理を委託するような高度な義務までは求められていません。

ポイントは「現に占有しているとき」という条件です。かつての条文は管理義務の範囲が広く読めましたが、2023年(令和5年)4月に施行された改正で、義務を負うのは実際にその土地や建物を占有していた人に限られることが明確になりました。実家に同居していた、鍵を持って出入りしていたといった実態があれば占有にあたりやすく、遠方に住み一度も管理に関わっていなければ占有にあたらないと考えられます。

判断フロー|自分に保存義務があるか

  • 放棄したとき、その土地・建物を現に占有していたか。占有していなければ、940条の保存義務は基本的に生じません。
  • 占有していた場合、引き渡す相手(次順位の相続人、または相続財産清算人)がいるか。相手がいれば、引き渡した時点で義務は終わります。
  • 引き渡す相手がいない場合、家庭裁判所へ相続財産清算人の選任を申し立て、清算人へ引き渡すことで義務から抜けられます。

庭木の越境や塀の倒壊といった近隣への実害は、占有の有無や管理状況によって責任の見方が変わります。判断に迷う事案は、放棄の前後を問わず、早めに司法書士や弁護士へ相談しておくと安全です。

相続放棄にかかる費用の明細

放棄そのものにかかる費用は、決して高額ではありません。家庭裁判所へ「相続放棄の申述(申し立て)」を行い、受理されることで効力が生じます。自分で手続きする場合の実費は次のとおりです。

項目 金額 備考
収入印紙 800円 申述人1人につき
郵便切手 裁判所により異なる 連絡用。管轄裁判所へ要確認
戸籍謄本などの実費 取得通数による 被相続人と申述人の関係を示す書類

申述先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。期間は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内と定められています。この3か月を過ぎると、原則として単純承認(財産も負債もすべて引き継ぐこと)とみなされるため、期限管理が最も重要です。書類作成を司法書士へ依頼する場合の報酬目安は、日本司法書士会連合会の2024年アンケートで、相続放棄申述書作成が平均40,892円(死亡後3か月以内・戸籍等5通の交付請求と申述書作成の設例、有効回答752)とされています。実費とは別に必要になる金額です。

管理義務から抜けるには|相続財産清算人という選択肢

占有していた土地の保存義務を確実に終わらせるには、引き渡す相手が必要です。次順位の相続人が管理を引き受けてくれれば、その人へ引き渡した時点で義務は終わります。引き受け手がまったくいない、あるいは相続人が全員放棄して不在になった場合は、家庭裁判所へ相続財産清算人の選任を申し立てます。

清算人が選ばれると、土地を含む財産の管理と清算はその清算人が担い、放棄した人は財産を引き渡すことで940条の義務から解放されます。ただし、清算人の選任申立てには、清算人の報酬や管理費用にあてる予納金(あらかじめ裁判所へ納めるお金)を求められることが一般的で、まとまった金額になる場合があります。

なお、相続放棄をした人であっても、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を計算するうえでは、放棄がなかったものとして法定相続人の数に数えます。放棄が他の相続人の税額計算に影響する点も、家族全体で確認しておくとよい部分です。

放棄しない場合の選択肢|相続土地国庫帰属制度との比較

いらない土地への対応は、相続放棄だけではありません。土地を相続したうえで、国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度(令和5年4月27日施行)もあります。両者は目的が似ていても、対象や費用、管理義務の残り方が大きく異なります。

比較項目 相続放棄 相続土地国庫帰属制度
対象 プラス・マイナスを問わず全財産 相続した土地のみ(一部だけ選べる)
主な費用 収入印紙800円+郵便切手 審査手数料 土地一筆14,000円+負担金 原則20万円
放棄後・帰属後の管理義務 占有していた土地は引き渡すまで保存義務(民法940条) 承認・負担金納付で国へ帰属し、以後の管理は不要
使える場面 負債が多い、財産全体を手放したい ほかの財産は欲しいが特定の土地だけ手放したい

国庫帰属制度の負担金は、宅地・田畑・雑種地や原野などでは面積にかかわらず原則20万円ですが、市街化区域内の宅地や農地、森林などは面積に応じた算定式で計算します。審査手数料は却下・不承認でも返還されません。また、建物が残っている土地、担保権が設定された土地、境界が不明確な土地などは申請自体が却下される点に注意が必要です。放棄と国庫帰属のどちらが向くかは、負債の有無とほかに残したい財産があるかで判断が分かれます。

解体費用と管理コストは誰が負担するか

古い日本家屋を眺める人物の後ろ姿
古い家屋と向き合う時間(イメージ)

土地に古い実家が残っている場合、更地にすれば管理は楽になりますが、解体費用は所有者側の負担です。相続放棄をして占有もしていなければ、放棄した人が解体費用を負う立場にはなりません。一方で、放棄前に自分の判断で解体してしまうと、財産を処分したとみなされ単純承認(放棄できなくなる状態)と評価されるおそれがあるため、放棄を検討している段階での安易な解体は避けるべきです。

木造家屋の解体費用は、建物の構造や広さ、立地、廃材の処分費で大きく変わります。相場は物件ごとに幅が大きいため、複数の解体業者から見積りを取って比較するのが基本です。空き家を売却して活用する場合は、一定の要件を満たすと譲渡所得から控除できる空き家の3,000万円特別控除(相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却など)もあり、放棄する前に「売って残す道」も含めて比較する価値があります。

よくある質問

相続放棄すれば土地の管理義務は完全になくなりますか

放棄のときにその土地を現に占有していなかったなら、民法940条の保存義務は基本的に生じません。占有していた場合は、次順位の相続人か相続財産清算人へ引き渡すまで、自分の財産と同じ程度の注意で保存する義務が残ります。

放棄した実家が空き家のまま、近所から苦情が来たら責任はありますか

占有していたかどうか、実際に管理していたかどうかで見方が変わります。占有していた土地で近隣に実害が出ている場合は、引き渡しまでの保存義務との関係で対応を求められることがあります。個別性が高いので、早めに専門家へ相談してください。

相続放棄の費用はいくらですか

自分で手続きする場合、収入印紙800円と郵便切手(裁判所により異なる)、戸籍等の実費が中心です。司法書士へ申述書作成を依頼すると、平均40,892円ほどの報酬が別途かかる目安です。

相続放棄と相続土地国庫帰属制度はどちらが良いですか

負債が多い、財産全体を手放したいなら放棄が向きます。ほかの財産は残したいが特定の土地だけ手放したいなら、負担金原則20万円などを支払う国庫帰属制度が候補になります。目的で選び分けるのが基本です。

全員が相続放棄したら土地はどうなりますか

相続人が誰もいなくなると、家庭裁判所へ相続財産清算人を選任し、清算手続きを経て土地は最終的に国庫へ入ります。清算人が引き受けるまでは、占有していた人に保存義務が残る場合があります。

解体費用は放棄しても払わなければなりませんか

放棄して占有もしていなければ、放棄した人が解体費用を負担する立場にはなりません。ただし放棄前に自分で解体すると放棄できなくなるおそれがあるため、順序に注意が必要です。

本記事の情報は2026年9月時点のものです。相続放棄や国庫帰属の可否、費用の要否は個別の事情で変わるため、実際の判断は最新の公式情報と、司法書士・弁護士などの専門家への相談で確認してください。

参考・出典

  • 裁判所「相続の放棄の申述」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
  • e-Gov法令検索「民法」(940条ほか) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 法務省「相続土地国庫帰属制度」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html
  • 法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00471.html
  • 国税庁 タックスアンサー No.4152「相続税の基礎控除額」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
  • 日本司法書士会連合会「報酬に関するアンケート」(2024年3月実施) https://www.shiho-shoshi.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/11/2a2e2c594bc4cd9ff2ca0f6d916db85e.pdf
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