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親の家を継ぐつもりはなく相続放棄(自分は相続人ではなくなる手続き)を済ませたのに、しばらくして親族や近隣から「実家の家財を早く片付けてほしい」「タンスや家電が残ったままだ」と連絡が来ることがあります。放棄したのだからもう関係ないはずだと思う一方で、鍵を今も持っているのは自分だけ、という状況も珍しくありません。ここで悩ましいのは、建物そのものの管理ではなく、建物の中に残った家財(家具・家電・衣類などの動産)を誰が処分するのかという点です。
結論から言うと、判断の基準は二つです。一つは「その家財を今、現実に占有(実際に持ち、管理できる状態)しているのは誰か」。もう一つは「家財を勝手に処分すると、相続を承認したとみなされて放棄が無効になりかねない」という点です。この二つを外すと、放棄したのに片付け義務だけ残ったり、逆に良かれと思った片付けで放棄そのものが崩れたりします。放棄した土地・建物の管理義務は別の記事で扱うため、本記事は建物内の動産(家財)に絞って整理します。
相続放棄すると家と家財はどうなるのか

相続放棄をすると、その人は初めから相続人でなかったものとして扱われます。実家の土地・建物も、その中の家財も、法律上は自分の所有物にはなりません。つまり所有者として自由に売ったり捨てたりする立場ではなくなります。
ただし「所有者でなくなること」と「一切手を触れなくてよいこと」は同じではありません。相続放棄をしても、次順位の相続人(たとえば故人の兄弟姉妹)や、最終的に清算する人が現れて引き継ぐまでの間、現に家財や建物を占有している人には、一定の管理・保存の責任が残る場合があります。放棄したその日から鍵も家財も他人が引き取ってくれるわけではない、というのが実務上の実態です。
建物内の家財を勝手に処分すると放棄が崩れる理由
最も注意すべきは、家財の「処分」が相続の単純承認(相続を全面的に受け入れたとみなされる状態)と評価されうる点です。相続人が相続財産の全部または一部を処分すると、法律上は相続を承認したものとみなされ、その後は原則として放棄ができなくなります。
ここでの「処分」には、価値のある家財を売る、譲る、自分のものとして使うといった行為が含まれ得ます。故人の預金を引き出して私的に使う、貴金属や骨董品を持ち帰る、といった行為は特に危険です。一方で、明らかに無価値で放置すれば傷むだけの生鮮品を捨てる、形見として社会通念上ごくわずかな物を受け取る、といった程度であれば処分と評価されにくいと説明されることが多いものの、線引きは個別事情によります。放棄を考えている段階、あるいは放棄の申述期間中(原則3か月)は、家財に手をつける前に専門家へ確認するのが安全です。
現に占有している者の保存義務(民法940条・令和5年4月1日施行)
令和5年(2023年)4月1日に施行された改正民法940条は、相続放棄をした人のうち「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している者」に対して、次に管理すべき人へ引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存する義務を負わせています。
ポイントは「現に占有している者」に限られることです。改正前は放棄した人全員に管理義務があるかのような広い書き方でしたが、改正後は、実際にその家財や建物を持ち・管理できる状態にある人だけが対象になりました。したがって、故人と別居していて鍵も持っておらず、家財に一度も触れていない人は、この保存義務の対象から外れる可能性があります。逆に、故人と同居していた、あるいは鍵を預かって出入りしている人は、引渡し先が決まるまで「壊さない・傷めない」程度の保存を求められる立場になり得ます。
片付けは誰がやるか|状況別の判断フロー

誰が家財を片付けるべきかは、占有の有無と次の担い手がいるかで整理できます。
- 次順位の相続人がいて放棄していない → その相続人が家財を含めて引き継ぎ、片付け・処分の責任を負う。放棄した自分は原則関与しない。
- 相続人全員が放棄した/相続人がいない → 家庭裁判所が選任する相続財産清算人が財産を管理・清算する。家財の最終的な処分もこの手続きの中で行われる。
- 清算人がまだ選任されず、自分が現に占有している → 引渡しまでの間、保存義務(傷めない・散逸させない)を負う。ただし換価目的の処分は避ける。
- 自分は占有しておらず鍵も持たない → 保存義務の対象から外れる可能性が高い。連絡が来ても、まず自分に占有があるかを確認する。
「誰も片付けたがらない」ケースでは、相続財産清算人の選任申立てが最終的な出口になります。ただし清算人選任には予納金などの費用と時間がかかるため、まずは次順位の相続人の有無を戸籍で確認し、連絡順を整理するところから始めるのが現実的です。
| あなたの状況 | 家財への対応 | 主なリスク |
|---|---|---|
| 別居・鍵なし・未接触 | 原則は関与不要。占有の有無だけ確認 | 低い(占有がなければ保存義務の対象外の可能性) |
| 鍵を預かり出入りしている | 引渡しまで保存(傷めない)。換価処分はしない | 処分すると単純承認とみなされる恐れ |
| 同居していた | 保存義務を負う前提で、私物と故人の物を分けて記録 | 私的流用が承認と評価される恐れ |
| 相続人全員が放棄済み | 清算人の選任申立てを検討 | 放置による建物・近隣トラブル |
広告この記事の結論:相続手続きのnocos
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相続放棄の費用と、家財を動かす前の順番

家財の処分に踏み込む前に、そもそも放棄自体をきちんと成立させることが先決です。相続放棄の家庭裁判所への申述にかかる法定費用は限られています。
- 収入印紙 800円(申述人1人につき)
- 郵便切手(家庭裁判所によって金額・組み合わせが異なる)
- 戸籍・住民票などの取得実費(続柄により通数が変わる)
専門家に依頼せず自分で申述する場合、法定費用の中心は上記の印紙800円と切手であり、家財の片付け費用とは別物です。家財の処分・遺品整理の費用は物量や地域で大きく変わり、公的な統計がないため、複数業者の見積りで比較するのが実務的です。放棄の期限(原則3か月)と片付けの依頼は分けて考え、期限内に放棄を確定させることを優先してください。手続き全体の費用感や名義変更まで含めた相場は、相続手続きの費用相場をまとめた比較記事で確認できます。
よくある質問
相続放棄すれば家財を自由に捨ててよいですか
いいえ。放棄後も、価値のある家財を勝手に処分すると相続を承認したとみなされ、放棄が無効になる恐れがあります。特に売却・譲渡・私的な使用は避け、判断に迷う物は手をつける前に専門家へ確認してください。
「現に占有している者」とは具体的に誰を指しますか
放棄の時点で、その家財や建物を実際に持ち・管理できる状態にある人です。同居していた人や鍵を預かっている人が典型で、別居で鍵も持たず一度も触れていない人は対象から外れる可能性があります。
放棄したのに近隣から片付けを求められました。応じる義務はありますか
まず自分に占有があるかを確認します。占有がなければ保存義務の対象外の可能性が高く、次順位の相続人や清算人の問題になります。占有がある場合でも、求められるのは原則「傷めない程度の保存」であり、費用をかけた全面処分の義務とは異なります。
誰も相続人がいない場合、家財は最終的にどうなりますか
家庭裁判所が選任する相続財産清算人が財産を管理・清算し、その手続きの中で家財も処分されます。選任には申立てと費用が必要なため、放置が続く前に早めの検討が望まれます。
形見として親の時計を1つ受け取るのも処分になりますか
社会通念上ごくわずかな形見の受領は処分と評価されにくいと説明されますが、時価の高い品は承認とみなされる余地があります。金額の張る物は受け取る前に確認するのが安全です。
相続放棄の手続き自体にはいくらかかりますか
自分で申述する場合、法定費用の中心は収入印紙800円(申述人1人につき)と郵便切手、それに戸籍などの取得実費です。家財の片付け費用はこれとは別に発生します。
参考・出典
- 裁判所「相続の放棄の申述」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
- e-Gov法令検索「民法」(第940条ほか) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 法務省「相続土地国庫帰属制度」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html

