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認知症に備えて親の自宅とアパートを家族信託(親の財産管理を家族に託す契約)にまとめた。管理は子である自分が受託者として行うことになったが、家賃の申告は誰がするのか、契約した年に贈与税がかかるのではないか、赤字が出たら給与と相殺できるのか。こうした「信託を組んだ後の税金」でつまずく家庭は少なくありません。
結論から言うと、家族信託の税金は「財産の管理を任された受託者」ではなく「信託の利益を受け取る受益者」にかかります。受益者を誰にするかで、贈与税がかかるかどうかも、赤字を他の所得と相殺できるかどうかも決まります。この一点を押さえれば、家族信託で起きる税金の失敗の多くは避けられます。
家族信託の税金は受益者にかかる(受益者課税の原則)

家族信託では、委託者(財産をもともと持っていた親)、受託者(管理を任される子など)、受益者(信託財産から生じる利益を受け取る人)の三者が登場します。このうち税金の負担者になるのは受益者です。
所得税法13条は、信託財産に属する資産や負債は受益者が持っているものとみなし、そこから生じる収益・費用も受益者に帰属するものとして扱うと定めています。つまり、アパートを信託して管理者が子になっても、家賃収入で確定申告をするのは受益者である親です。受託者である子は、財産を預かって管理しているだけで、その家賃を自分の所得として申告するわけではありません。
多くの家族信託は、親が委託者であると同時に受益者にもなる「自益信託」の形で組まれます。この場合、信託の前後で利益を受け取る人(親)が変わらないため、財産の実質的な移転がなく、契約した時点で贈与税や不動産取得税がかかることは原則ありません。名義は受託者へ移りますが、税務上は親が持ち続けている扱いになるからです。
信託期間中の申告:受益者が確定申告する
信託した不動産に家賃収入があるなど、信託財産から所得が生じている場合、その申告義務は受益者にあります。受益者である親に一定の所得があれば、通常どおり親自身の確定申告に含めて申告します。受託者の子が代わりに自分の申告として出すものではありません。
一方で受託者にも役割があります。受託者は信託財産の収益や費用をまとめた「信託の計算書」などの書類を、一定の場合に税務署へ提出する必要があります。提出義務の有無や様式は信託の内容によって変わるため、収益不動産を信託した場合は税理士に確認しておくのが安全です。
信託を組んだからといって申告の手間そのものが消えるわけではありません。むしろ受託者側の書類が増えることがある点は、あらかじめ理解しておきたいところです。
受益者を親以外にすると贈与税が出る

家族信託の税金で最も見落とされやすいのが、受益者を委託者以外の人にしたときの贈与税です。
相続税法9条の2は、適正な対価を負担せずに新たに受益者となった人は、信託に関する権利を委託者などから贈与によって取得したものとみなすと定めています。たとえば親を委託者としながら、契約の当初から子を受益者に設定すると、信託を組んだ時点で受益権が親から子へ無償で移ったとみなされ、子に贈与税が課される可能性があります。
「名義を子に移すだけのつもり」で受益者まで子にしてしまうと、想定していなかった贈与税が発生します。認知症対策として財産管理を任せたいだけなら、受益者は親のままにする自益信託にするのが基本です。財産を子へ引き継ぐタイミングは、信託の終了時や親の死亡時に設計するのが一般的で、その場合は贈与税ではなく相続税の対象として扱われます。
| 信託の型(委託者は親) | 受益者 | 信託した時点の課税 |
|---|---|---|
| 自益信託 | 親(委託者本人) | 実質移転なし。贈与税は原則かからない |
| 他益信託 | 子など委託者以外 | 受益権の無償移転とみなされ、受益者に贈与税がかかる可能性 |
広告この記事の結論:税理士ドットコム
受益者への課税や損益通算できない点など家族信託特有の税金の落とし穴は、相続に詳しい税理士に確認する方法もあります。
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信託不動産の損失は「なかったもの」になる(損益通算の制限)
収益不動産を家族信託に入れるときに、必ず知っておきたいデメリットが損益通算(赤字を他の所得と相殺すること)の制限です。
租税特別措置法41条の4の2は、信託から生じた不動産所得に損失がある場合、その損失は「生じなかったもの」とみなすと定めています。通常、個人が持つ収益不動産で赤字が出れば、給与所得や他の不動産所得と相殺して全体の税負担を下げられます。ところが信託した不動産の赤字は、この損益通算ができません。翌年以降への繰り越しもできず、損失はその年で切り捨てられます。
制限は信託ごとに判定されるため、信託の外で持っている黒字の不動産と相殺することも、複数の信託契約をまたいで相殺することもできません。大規模修繕や空室で赤字が出やすい物件、あるいはローン返済中で減価償却が大きく赤字になりがちな物件を信託に入れると、この切り捨ての影響が大きくなります。
簡単な数字で見る影響
たとえば信託したアパートで年間100万円の赤字、信託していない別の物件で年間100万円の黒字が出たとします。信託を使わなければ両者を相殺して不動産所得はゼロになりますが、信託に入れた側の赤字は「なかったもの」とされるため、黒字の100万円だけが課税対象として残ります。赤字物件を信託に入れるかどうかは、この点を踏まえて慎重に判断する必要があります。
信託の終了時・受益者の死亡時にかかる税金
自益信託で親を受益者にしておいた場合、親が亡くなって次の受益者(子など)へ権利が移るとき、その受益権は相続や遺贈で取得したものとして相続税の対象になります。信託を使っていても、最終的に財産が子へ渡る局面では相続税の枠組みで課税されるという点は、遺言や生前贈与と共通です。
相続税がかかるかどうかは、遺産全体が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるかで判定します。信託財産もこの遺産に含めて考えます。信託を組んだこと自体で相続税が減るわけではないため、節税を主目的にするのではなく、認知症による資産凍結を防ぐ管理の仕組みとして位置づけるのが実態に合っています。
家族信託を組む費用や、あわせて必要になる登記・専門家報酬の全体像は、相続手続きの費用相場をまとめた記事もあわせて確認してください。
判断フロー:贈与税を避ける組み方

- 目的は「認知症による資産凍結の回避」か「財産の生前移転」かを分ける。管理が目的なら受益者は親のままにする。
- 受益者を委託者以外にする場合は、信託時点で贈与税がかかる前提で税額を試算してから決める。
- 信託に入れる不動産が赤字になりやすいなら、損益通算の制限で損失が切り捨てられる影響を見積もる。
- 収益不動産を信託する場合は、受託者の計算書提出義務を含めて税理士に確認する。
- 親の死亡時に相続税の対象になる財産規模かを、基礎控除と照らして把握しておく。
よくある質問
家族信託を組むと節税になりますか
信託を組んだこと自体で相続税が下がる仕組みはありません。財産は最終的に相続税の対象として次の受益者へ移ります。家族信託は主に認知症などによる資産凍結を防ぐための管理手法で、節税を第一の目的にするものではないと理解しておくのが安全です。
家賃の確定申告は受託者の子がするのですか
いいえ。信託財産から生じた不動産所得は受益者に帰属します。受益者が親であれば、親自身の確定申告に含めます。受託者の子は管理者であって、家賃を自分の所得として申告する立場ではありません。
親を委託者、子を受益者にすると必ず贈与税がかかりますか
適正な対価なく子が受益者になると、信託に関する権利を贈与で取得したとみなされ、贈与税がかかる可能性があります。管理だけが目的なら受益者は親のままにする自益信託にすることで、この課税を避けられるのが一般的です。
信託した物件の赤字を給与と相殺できますか
できません。信託から生じた不動産所得の損失は「なかったもの」とみなされ、給与所得や他の不動産所得との損益通算も、翌年への繰り越しもできません。赤字が出やすい物件を信託に入れるかは慎重に検討してください。
受益者が途中で亡くなったらどうなりますか
あらかじめ次の受益者を定めていれば権利がその人へ移り、相続や遺贈で取得したものとして相続税の対象になります。信託契約であらかじめ承継先を決めておける点は家族信託の特徴の一つです。
税金の相談は誰にすればよいですか
信託の設計や登記は司法書士、税金の試算や申告は税理士が担当分野です。収益不動産を信託に入れる場合は、贈与税・損益通算・受託者の書類提出まで含めて、契約前に税理士へ相談しておくと失敗を防げます。
参考・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.4152 相続税の基礎控除額 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.4205 相続税の申告と納税 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
- e-Gov法令検索(所得税法・相続税法・租税特別措置法の条文) https://laws.e-gov.go.jp/

