株式と証券口座の相続手続き|移管の流れ

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親が亡くなり、遺品を整理していたら証券会社からの取引報告書が出てきた。上場株式が数百万円分残っている。売って現金にしてから兄弟で分けたい、と思って証券会社に電話をしたところ、「まず相続人ご本人名義の口座を作ってください。そこへ株を移してからでないと売却はできません」と言われて戸惑う。預金なら口座を解約して現金を受け取れたのに、株はなぜひと手間多いのか。ここでつまずく人は少なくありません。

先に結論を言うと、上場株式の相続は「解約して現金受取」という流れが使えず、被相続人(亡くなった方)の口座から相続人名義の証券口座へ株式を移す「移管」をしてから、相続人が自分の口座で売るという順序になります。だから最初にやるべきは、株式そのものの売却手続きではなく、株を受け取る側である相続人の証券口座を用意することです。この順序を知らないまま窓口に行くと二度手間になります。

株式の相続が預金の相続と決定的に違う点

預金の相続では、必要書類をそろえれば金融機関が口座を解約し、相続人が指定した口座へ現金を振り込んで完了します。手続きの終点が「現金」です。銀行別の書類や期限は相続手続きの費用相場をまとめた記事の考え方が参考になりますが、株式はここが根本的に異なります。

株式は「現物」です。証券会社は原則として、亡くなった方の株を勝手に売って現金化し、相続人へ渡すということをしません。まず株式という財産のまま相続人の名義に移し、その後に売るか持ち続けるかを相続人自身が決める、という建て付けになっています。そのため手続きの終点は「相続人名義の証券口座に株が入った状態」であって、現金ではありません。現金化したい場合は、移管が終わってから改めて売却注文を出します。

「移管」とは口座から口座へ株を動かすこと

移管(現物移管)とは、株式を売らずに、ある証券口座から別の証券口座へそのまま移すことを指します。相続の場面では、被相続人の口座から相続人の口座へ株を移す作業です。株の数や銘柄はそのまま引き継がれ、取得した時の価格や取得日といった情報も一緒に移ります(後述する税金の計算で重要になります)。

証券口座の名義変更(移管)の流れ

亡くなった方の株を相続人が受け取るまでの大まかな流れは次のとおりです。同じ証券会社の中で完結するのが基本で、相続人がその証券会社に口座を持っていない場合は新規開設から始めます。

順序 やること 窓口
1 証券会社へ死亡を連絡し、被相続人の口座を凍結してもらう 被相続人が取引していた証券会社
2 相続人名義の証券口座を用意する(無ければ開設) 原則として同じ証券会社
3 相続手続きの書類(戸籍・遺産分割協議書など)を提出 同証券会社の相続担当
4 株式を相続人の口座へ移管する処理 証券会社・証券保管振替機構
5 移管完了後、相続人が自分の口座で売却・現金化 相続人の証券口座

ポイントは順序2です。相続人がその証券会社に口座を持っていないと、株の受け皿がありません。開設には数日から数週間かかることもあるため、書類集めと並行して早めに動くと全体が短くなります。

証券保管振替機構(ほふり)の口座振替

上場株式の多くは、紙の株券ではなく証券保管振替機構(通称ほふり。株式の保有情報を電子的に管理する機関)で一元管理されています。相続による移管は、この機構の仕組みを使った口座間の振替として処理されます。相続人が実際に紙の株券を持ち運ぶわけではなく、証券会社を通じて電子的に名義が移る点をイメージしておくと、窓口の説明が理解しやすくなります。手続きの詳細な案内は日本証券業協会や証券保管振替機構の公式情報にまとまっています。

移管に必要な書類

証券会社によって様式や呼び名は違いますが、共通して求められることが多いのは次のような書類です。遺言書の有無、遺産分割協議で決めるか、で必要なものが変わります。

  • 証券会社所定の相続手続依頼書(相続人全員の署名・実印)
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍(相続人を確定するため)
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 遺産分割協議書、または遺言書(ある場合)
  • 株式を受け取る相続人の証券口座番号がわかるもの

戸籍の集め方や、法定相続情報一覧図を使うと戸籍の束を何度も出さずに済む点は、他の相続手続きと共通です。証券・預金・不動産をまとめて進める場合は、戸籍一式を早めにそろえておくと使い回せます。

特定口座の取得価額はどう引き継がれ、売却時の税金はどうなるか

相続した株を売って利益(譲渡益)が出ると、その利益に対して税金がかかります。ここで大切なのが「取得価額(その株をいくらで買ったか)」です。相続で取得した株式は、原則として被相続人がその株を買った時の取得価額と取得日を相続人が引き継ぐという考え方になっています。相続した日の時価で買い直したことにはなりません。

具体的には、亡くなった方が1株1,000円で買った株を相続人が売ると、売却額から差し引く元手はこの1,000円が基準になります。相続した時点の株価ではないため、被相続人がずっと昔に安く買っていた株ほど、売った時の譲渡益が大きく出て税金も増える傾向があります。特定口座(証券会社が損益を計算してくれる口座)の場合、この取得価額の情報を移管とあわせて引き継ぐ扱いが用意されています。ただし引継ぎの可否や手続きは証券会社ごとに条件があるため、移管の申し込み時に「取得価額の引継ぎができるか」を必ず確認してください。取得価額を証明する資料が無いと、売却額の一定割合を取得費とみなす概算計算になり不利になることもあります。特定口座での取得価額の引継ぎに関する詳しい取り扱いは国税庁の資料で確認できます。

相続税と譲渡所得税は別物

混同しやすいのですが、株を相続したこと自体にかかる「相続税」と、相続後に売って利益が出たことにかかる「譲渡所得税」は別の税金です。相続税は遺産全体に対して、譲渡所得税は売った時の利益に対してかかります。両方が問題になる場面があることを押さえておきましょう(相続税の申告が必要になった株の売却では、一定期間内なら相続税額の一部を取得費に加算できる特例もあります。

株式を含む相続税の計算例

株式は相続財産の一部として、相続税の計算に組み込まれます。相続税には基礎控除があり、遺産の合計がこの枠を超えなければ申告も納税も不要です。基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算します(国税庁 No.4152)。

たとえば、相続人が配偶者と子2人の合計3人の場合を考えます。

  • 基礎控除額=3,000万円+600万円×3人=4,800万円
  • 遺産の合計が、上場株式1,500万円+預金2,000万円+自宅3,000万円=6,500万円だとすると
  • 6,500万円は4,800万円を上回るため、相続税の申告が必要になります

株式は相続税評価の場面では、亡くなった日の終値など複数の基準のうち低い価格を使う仕組みがあり、評価額が変動します。申告と納付の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。移管に時間がかかると、この期限が思いのほか迫ります。相続税がかかりそうな場合は、移管を待たずに評価額の把握を先に進めるのが安全です。

どの順で動くか(判断フロー)

  1. まず被相続人の取引証券会社を特定する。取引報告書・郵便物・メールで証券会社名を確認し、その会社へ死亡を連絡して口座を凍結する。
  2. 相続人がその証券会社に口座を持っているか。持っていない → 口座開設を最優先で申し込む。持っている → そのまま移管手続きへ。
  3. 遺産分割の方法が決まっているか。遺言がある → 遺言に従う。無い → 遺産分割協議で誰が株を受け取るかを決めてから書類を用意する。
  4. 売る予定か、持ち続けるか。売る場合も、いったん相続人口座へ移管してから売却する。移管前に売ることはできない。
  5. 相続税がかかりそうか。遺産合計が基礎控除を超えそうなら、10か月の期限を意識し、評価額の把握と専門家への相談を並行する。

よくある質問

株を売って現金でもらうことはできないのですか

被相続人の口座のまま証券会社が売って現金で渡す、という扱いは原則できません。相続人名義の証券口座へ移管したうえで、相続人自身が売却する流れになります。現金化したい場合も、まず口座の準備から始めてください。

相続人が証券口座を持っていない場合はどうなりますか

株を受け取る受け皿が無いため、原則として同じ証券会社で相続人名義の口座を新しく開設します。開設に日数がかかることがあるので、戸籍などの書類集めと同時に早めに申し込むと全体が短く済みます。

複数の証券会社に口座がある場合はどうしますか

証券会社ごとに別々の手続きが必要です。それぞれの会社に死亡を連絡し、会社ごとに相続手続依頼書と戸籍などを提出します。どの会社と取引していたかは、郵便物や証券保管振替機構への開示請求で確認できる場合があります。

非上場株式(自社株など)も同じ流れですか

非上場株式は証券保管振替機構を通さず、発行会社ごとの名義書換手続きになるため、上場株式とは進め方が異なります。評価も複雑になりやすく、税理士など専門家への相談が現実的です。

相続した株はいつ売るのが得ですか

値動きの予測は誰にもできず、断定はできません。ただし税金の面では、被相続人の取得価額を引き継ぐため、いつ売っても元手の基準は変わりません。相続税がかかる場合は取得費加算の特例に期限があるなど、税制上の期限が判断材料になります。個別の状況は税理士に確認してください。

手続きにお金はかかりますか

移管そのものは無料の証券会社が多い一方で、戸籍謄本や印鑑証明書の取得実費はかかります。相続財産の調査や書類作成を専門家に頼む場合はその報酬が別途必要です。証券会社ごとの取り扱いは公式の案内で確認してください。

参考・出典

  • 国税庁 タックスアンサー No.4205 相続税の申告と納税 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.4152 相続税の計算(基礎控除) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
  • 日本証券業協会(相続手続きの案内。URLは追加取材で確定予定)
  • 証券保管振替機構(口座振替・登録済加入者情報の開示。URLは追加取材で確定予定)
  • 国税庁(特定口座の取得価額の引継ぎ・相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例。該当ページは追加取材で確定予定)
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