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夫を亡くした妻が税理士から「配偶者の控除を使えば相続税はかかりません」と言われ、その場では安心したものの、財産の大半を妻が引き継いだあとで「では自分が亡くなったとき、子どもたちの相続税はどうなるのか」と不安になる。これは相続税の配偶者控除をめぐって実際に起こりやすい場面です。目先の一次相続(最初に配偶者が相続するとき)を非課税にできても、その財産はいずれ二次相続(残された配偶者が亡くなり、子だけで相続するとき)に持ち越されます。
判断の基準はひとつです。配偶者控除は「一度の相続でいくら得か」ではなく「一次相続と二次相続を合わせて、家族全体の税負担がどうなるか」で考える必要があります。特に二次相続では相続人が1人減るため、後で説明するとおり非課税の枠(基礎控除)そのものが小さくなります。まずは制度の中身を正確に押さえたうえで、どこに落とし穴があるのかを見ていきます。
配偶者控除(配偶者の税額軽減)とは何か

相続税の配偶者控除は、正式には「配偶者の税額軽減」と呼ばれます。配偶者が実際に取得した遺産額が、次の金額のどちらか多いほうまでであれば、配偶者に相続税がかからないという制度です。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
たとえば法定相続分が2分の1の配偶者であれば、遺産全体が3億円あっても、その半分(1億5,000万円)までは法定相続分の範囲として軽減の対象になります。さらに1億6,000万円という金額基準もあるため、多くの家庭では配偶者が相続する分について相続税が発生しません(国税庁タックスアンサーNo.4158)。婚姻期間の長さは問われず、戸籍上の配偶者であれば適用されます。
ここで見落とされやすいのが、この特例は「申告してはじめて使えるもの」だという点です。税額軽減を適用した結果、納める相続税が0円になる場合でも、相続税の申告そのものは必要です。申告の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です(国税庁タックスアンサーNo.4205)。「税金がかからないなら何もしなくていい」と思い込むと、この申告を忘れてしまいます。
なぜ「使えばゼロ」に落とし穴があるのか
配偶者控除の最大のデメリットは、一次相続で税負担をゼロに寄せると、財産が配偶者に集中し、二次相続でまとめて課税されやすくなることです。相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算する基礎控除(この金額までは課税されない枠)があります(国税庁タックスアンサーNo.4152)。問題は、二次相続ではこの基礎控除が一次相続より小さくなる点にあります。
相続人が1人減ると基礎控除は600万円下がる
父が亡くなり、母と子2人が相続する一次相続と、その後に母が亡くなり子2人だけで相続する二次相続を比べると、法定相続人の数が3人から2人へと1人減ります。基礎控除の計算式に当てはめると、次のようになります。
| 相続の場面 | 法定相続人 | 基礎控除の計算 | 基礎控除額 |
|---|---|---|---|
| 一次相続(母+子2人) | 3人 | 3,000万円+600万円×3 | 4,800万円 |
| 二次相続(子2人のみ) | 2人 | 3,000万円+600万円×2 | 4,200万円 |
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この例では、非課税の枠が600万円分小さくなります。つまり、同じ財産でも二次相続のほうが課税対象になりやすい構造です。相続人がもともと少ない家庭(子が1人など)ほど、この差の影響が大きくなります。
一次でゼロにすると財産が配偶者に集まる
一次相続で配偶者控除をめいっぱい使おうとすると、財産の多くを配偶者が相続する分け方になりがちです。その財産は配偶者自身がもともと持っていた資産と合算され、二次相続のときに子へ引き継がれます。基礎控除が減っている状態で、より多い財産に対して相続税がかかるため、一次と二次を通算した家族全体の負担が、かえって重くなることがあります。
どの程度重くなるかは、財産の額・種類、相続人の数、配偶者自身の資産によって大きく変わります。二次相続まで含めた具体的な税額の試算は、家庭ごとの前提で結果が全く違ってくるため、税理士に依頼して個別に計算してもらうのが確実です。ここで押さえておきたいのは、「一次相続を非課税にする=家族にとって最も得」とは限らない、という考え方です。
配偶者控除を使うときの注意点

デメリットの裏返しとして、実務で気をつけたい点を整理します。
- 申告が必須:税額が0円でも、期限(死亡を知った日の翌日から10か月以内)までに相続税の申告書を提出しないと軽減を受けられません。
- 遺産分割が固まっていること分けられずに期限を迎える場合の取り扱いは、専門家に早めに相談してください。
- 二次相続を見据えた配分:一次相続の段階で、あえて子にも一定額を相続させ、配偶者に集めすぎない分け方が検討される場合があります。これは家庭ごとの財産構成で最適解が変わるため、一律の正解はありません。
相続税の話とは別に、名義変更などの手続きにも費用がかかります。手続き全体でいくらかかるかの目安は、相続手続きの費用相場をまとめた記事で確認できます。
配偶者控除を使う前に確認したいこと(判断の流れ)

使うべきか、どこまで使うべきかを考えるときの順序を、条件と結論の形で示します。
- そもそも相続税がかかるか:遺産総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら、配偶者控除を論じる前に相続税自体が発生しません。まず基礎控除と比べます。
- 配偶者以外の相続人が何人いるか:子が少ないほど二次相続で基礎控除が大きく減ります。相続人構成を確認します。
- 配偶者自身の財産はどれくらいか:配偶者にもとから資産があるほど、一次で集めると二次の課税が重くなりやすいです。
- 一次と二次を通算して試算する:ここは自己判断せず、税理士に一次・二次を通した試算を依頼します。試算を見たうえで、配偶者にどこまで寄せるかを決めます。
結論として、配偶者控除は「使わない」のではなく「使い方を通算で設計する」ものだと考えると、デメリットを避けやすくなります。
よくある質問
配偶者控除を使えば相続税は完全にゼロになりますか
配偶者が取得した遺産が1億6,000万円または法定相続分相当額までなら、配偶者にかかる相続税は軽減されて0円になり得ます。ただし他の相続人(子など)が取得した分には別途相続税がかかる場合があり、家族全体でゼロになるとは限りません。
税額がゼロなら申告しなくてよいですか
いいえ。配偶者の税額軽減は申告することを前提とした特例です。納税額が0円でも、申告期限(死亡を知った日の翌日から10か月以内)までに相続税の申告書を提出する必要があります。
二次相続で税金が増えるのは必ず起こりますか
必ずではありません。財産額や相続人の数によっては差が小さいこともあります。ただし相続人が1人減れば基礎控除は600万円小さくなるため、一次相続に財産を寄せるほど二次相続の課税リスクは高まりやすい、という傾向はあります。
一次相続で子にも相続させたほうがよいのですか
家庭によります。配偶者に集中させないことで二次相続の負担を抑えられる場合がありますが、配偶者の生活資金の確保とのバランスが必要です。一次・二次を通した試算をしたうえで判断するのが安全です。
婚姻期間が短くても配偶者控除は使えますか
配偶者の税額軽減に婚姻期間の要件はありません。戸籍上の配偶者であれば、婚姻期間が短くても対象になります。内縁関係の場合は対象外です。
二次相続の税額は自分で計算できますか
基礎控除の額までは計算式で確認できますが、実際の税額は財産の評価や特例の適用で変わります。二次相続まで含めた試算は前提により結果が大きく変わるため、税理士に依頼して個別に計算してもらうことをおすすめします。
なお、本記事の税率や税額そのものの試算は行っていません。制度の内容や適用の可否はご家庭の状況によって異なるため、具体的な判断は税務署または税理士にご確認ください。情報は2026年9月時点のものです。
参考・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.4158「配偶者の税額の軽減」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.4152「相続税の計算(基礎控除)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.4205「相続税の申告と納税」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm

